03


面倒くさいので、簡単に説明してしまおう。
少女の父上は、蘭方医をしており、その父上が仕事で京へと行かなければならなくなった。父上は少女に毎日の様に文を出した。しかし、その文が突然途絶えてしまったそうな。父上の身を案じた少女が、男装をして京へと旅をして来たというわけだ。



「父の行方は一向に知れず、途方に暮れていたところを襲われた、というわけです」
「そうか……、父上を捜しにはるばる江戸から……。大変だったなあ……」



少女の話を聞き、涙ぐんでいる局長。相変わらず涙もろいなあ、と苦笑してしまう。



「なるほどな。年端もいかねぇ小娘が男に身をやつしていたのは、そういう理由か」



うんうん、そういう理由なら男装していることも納得がいく。が、副長の言葉に、局長が「何っ……、小娘!?」と首を傾げる。それに続き、新八さんも「お前、女か!?」と少女を指さした。え、気づいてなかったんですか。



「……申し遅れました。私、雪村千鶴と言います」



自分の名を言った少女――千鶴――に平助さんが「嘘だろ……」と唖然とする。その台詞私が言いたいですよ。平助さんまで気づいてなかったんですか。内心呆れていると、曲調が「この近藤勇、一生の不覚!まさか君が女子だったとは!!」と同様する。すかさず、沖田さんが苦笑しながら「どう見ても女の子じゃないですか」と言った。沖田さんの言うとおりですよ、局長。……と言っても、男装だから女であることを周りにバレちゃいけないんだよね。そう言う点では彼女、局長達を騙せていたかも。



「あなたの父上は江戸で蘭方医をしていると言いましたね。……もしかして、雪村綱道氏ですか?」



山南さんの言葉に、少女は目を丸くして「父を御存知なんですか!!?」と言った。どうやら、山南さんの言った通りらしい。それにしても、綱道さんとは似つかない顔立ちをしている。ただ単に母親譲りの顔立ちなのだろうか。可愛いなあ。



「綱道氏の娘さんだと……? ――お前、どこまで知ってる?」



更に鋭くなった副長の眼差しに、少女は怯みながらも「どこまでって……?」と聞く。しかし、副長は「とぼけるな! 綱道氏のことだ!!」と怒声にも似た声で言う。しかし、少女は「ど、どういうことです? まさか、父に何かあったんですか?」と不安そうな表情になった。そんな少女に、副長は無言になる。これは本当に知らないようだ。さて、副長は一体どこまで話すのだろうかなーっと。



「ひと月ほど前、綱道氏が詰めていた屋敷が火事で焼け落ちて以来、行方が判らなくなっている」
「え……!?」
「遺体は見つかってねぇ。……ただ、なんらかの事件に巻き込まれた可能性がある。綱道氏の行方は俺達も追っているところだ。昨夜の件を忘れるなら、父親が見つかるまでの間、お前を保護してやる」



副長の言葉に、少女は小さく「え」と声に出す。思いがけない「保護」という言葉に、どうやら戸惑っているようだ。すると、局長が「心配するな。君の父上は我々が必ず見つけ出してみせる!」と付け加える。そのことに、「あ、ありがとうございます!!」とお礼を言いながら頭を下げた。ふぅー…、こっちまでホッとする。これで少女がこの場で殺されることは無くなった。あとは少女の行動次第で、生かされるか殺されるかが決まる。



「殺されずに済んでよかったね。とりあえずは、だけど」
「は、はい……」
「この人のことは気にしないでくださいね。チクチク棘のある言葉を言ってきますけど、無視してくれて構いませんから」
「ちょっと、それどういう意味」



ムスーッとしている沖田さんを無視する。少女は反応に困ってオロオロしているようだ。



「隊士として扱うのも問題ですし、彼女の処遇は考えなければいけませんね」
「寧みてぇに誰かの小姓にすりゃ良いだろ? 近藤さんとか、山南さんとか」
「やだなあ、土方さん。そういう時は言いだしっぺが責任取らなくちゃ」
「ああ、トシのそばなら安心だ!」



沖田さんと局長の言葉に、副長は「はあ!?」と声を荒げる。しかし、それに追い打ちをかけるように、山南さんが爽やかな笑顔で「そういうことで土方君、よろしくお願いしますね」と副長に言った。副長は三人の言葉に青筋を立てながら「てめぇら……」と何も言えずにいる。鬼の副長の小姓とは、少女は不運だなあ。



「大丈夫ですよ。ああ見えて、副長はちょっとお茶目なんです」
「そ、そうなんですか……?」
「お茶目じゃねぇよ!! 何処をどう見たらそう捉えれるんだ!!?」
「ちょっと土方さーん。僕の小姓ちゃんに怒鳴らないでくれますー?」
「くっそ、覚えとけよ……!!」



副長はそう言い、深い溜め息をつく。おうおう、溜め息をついたら幸せが逃げますよ。反抗することを諦めたのか、副長は「寧、そいつを部屋に連れていけ」と私に命令を下す。その言葉に「分かりました」と返事をし、少女へと歩み寄。「行きましょうか」と声を掛けると、「あ、はい」と頷いて素直に立ってくれた。良い子だ。この子、疑う程の子じゃないと思うんだけどなあ。



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