変魂-へんたま- | ナノ

『その熱き覚悟と与えられた任務』


「――予算会議を先延ばしにしてほしい、だと……?」



「潮江文次郎」「立花仙蔵」と筆で名前が書かれた木札がかけられた部屋の中で、潮江文次郎は眉間に皺を寄せた。隣に居るのは、同室である立花仙蔵。目の前に居るのは、鉢屋三郎と不破雷蔵を除いた五年生達。



「申し訳ありません。でも、どうしてもやらなくてはいけない事があるんです!」
「このお詫びは必ずします。私達に、しばらく有余をください」
「事が済んだら説教でも罰でもなんでも受けます! だから、」
「「「お願いします!」」」



床に頭を擦りつけるほど頭を下げる尾浜勘右衛門、久々知兵助、竹谷八左ヱ門。文次郎はそんな三人に戸惑いつつも、隣にいる仙蔵へと目を向けた。仙蔵はその視線に気づき、文次郎へと目を向けるが「お前次第だぞ、文次郎」とわざわざ口に出して言った。そんな仙蔵を恨みつつ、文次郎は溜め息をつく。



「理由無しに許可出来る訳なかろうが、バカタレ」



呆れたように言う文次郎の言葉に、勘右衛門達は頭を上げて文次郎を見る。だが、理由はとても言いづらい内容だ。三人は困ったように顔を見合わせ、視線を落とした。



「……言えないことか?」
「えっと、言えないというか言いづらいというか……」



ハッキリとしない物言いの八左ヱ門に、文次郎は探りを入れるような目で見る。そんな視線に気づいたのか、視線を更に落とす八左ヱ門。そんな様子を見て、仙蔵が顎に手を当てて「ふむ」と言った。



「先程から不破雷蔵と鉢屋三郎の姿が見えないが、もしや二人が関係しているのではないか?」
「お、大まかに言ってしまえば……」
「……喧嘩か?」
「あはは……、もっと複雑です」



苦笑する勘右衛門と兵助。仙蔵は「二人の間にイザコザがあるとは珍しいな」と内心思いつつ、予算会議の件をどうするか考える。



「そんなに先延ばしにしてほしいなら、受け入れてやろう」
「おい仙蔵! 勝手に決めるな!」



仙蔵の言葉に、皆の反応は様々だった。勘右衛門と兵助は驚き、八左ヱ門は嬉しそうに笑い、文次郎は眉間に皺を寄せる。文次郎に怒鳴られたとはいえ、仙蔵に意見を変えるつもりは毛頭ない。



「良いではないか。可愛い後輩の頼みだぞ」
「可愛いと言える歳ではないだろう」
「それに、予算会議が先延ばしになれば、我々作法委員会の作戦も増える」
「っ俺達に何かする気満々じゃねえか!?」
「何を言う、失礼だな。殺るのはお前だけだ、文次郎」
「こ、殺される……!」



口喧嘩を初めてしまう文次郎と仙蔵。そんな二人を唖然と見つつ、勘右衛門、兵助、八左ヱ門は顔を見合わせる。そして、許可がおりたという事実に頬を緩ませた。これで、三郎を迎えに行ける。




 ***




学園長先生に呼び出された。内容を知らされないままヘムヘムと共に学園長先生の庵へ行き、話された内容は三郎のことだった。



「おぬしなら、行くのではないかと考えておる」
「……はい、行かせてもらおうかと思っています」



学園長先生の言葉に、私は素直に自分の心情を話した。私の言葉に、学園長先生は「やはりか」と言い、手に持っているお茶をズズーッと啜った。



「冬紀の行動に異論は無い。三郎の父上は、わしに退学届を出さずに三郎を連れ出してしまったしの」
「え……、では、三郎は正式に学園を辞めたわけではないのですか?」
「うむ。そこで、冬紀に頼みたいことがある」



そう言い、学園長先生が懐から取り出したのは文だった。その文を、私の前へと置く。文を見ると「鉢屋次郎丸殿」と、達筆に書かれていた。学園長先生へと視線を向けると「三郎の父上へ向けた文じゃ」と教えてくれた。



「この文を、届けてほしい。鉢屋家への案内はヘムヘムに任せる」



学園長先生の言葉にヘムヘムへ視線を変えると、ヘムヘムは自信満々の笑みで胸を張った。どうやら「任せろ」と言っているようだ。私はホッとして、頬が少し緩ませる。その時、学園長先生が「冬紀」と私の名を呼んだ。学園長先生に目を向けると、学園長先生は頭を畳に付けるほど、私に深く頭を下げていた。



「――わしの生徒を、どうか助けてやってくれ……!」



断る理由など無い。元よりそのつもりだ。どうか頭を上げてください。そこまでせずとも、私は行動を起こすはずだったのだから。



「お任せください、学園長先生」



貴方から初めて受けた任務、私が必ず成し遂げてみせます。



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