変魂-へんたま- | ナノ

『死亡フラグかと思っていたら既に死んでいた』


学園長先生の庵へと着いた。
善法寺伊作が「天女様をお連れしました」と、障子越しに部屋の中へと声をかける。すると、中から「うむ、入れ」と返事が返ってきた。その言葉に善法寺伊作が障子を開け、中へと入る。私は善法寺伊作の後ろでビクビクしながら入る。



「隣へどうぞ」
「有難う御座います……」



学園長先生が居る目の前に座る善法寺伊作。私が困る前に、善法寺伊作が隣へ座るように言ってくれた。私はお言葉に甘え、善法寺伊作の隣へ正座で座る。ピリピリとした空間。
この部屋には私と善法寺伊作、学園長先生しか居ない。だが、天井には先生方や忍たま達が居るであろう。とりあえず刺激しないように、自分の名は名乗っておいたほうが良さそうだ。



「お初にお目にかかります。神田冬紀と申します」



膝の前で手を添え、頭を下げて言う私。その行動に善法寺伊作は「え……」と声を漏らした。驚いているのだろうか。



「此度は此方の善法寺伊作殿に助けていただいたようで、心より感謝申し上げます」



そう言って頭を上げ、学園長先生を見る。が、学園長先生は驚いたように私を凝視している。不安になり、善法寺伊作を見ると、彼も驚いたように私を凝視していた。……え、この状況どうすれば良いの。「えと、あの……」と戸惑っていると、学園長先生が「あ、ああ」と我に返った。少し差し出がましい言い方をしてしまっただろうか。



「なに、困っている人を助けるのは当然のことじゃ。儂は大川平次渦正じゃ」
「あ、ご丁寧に……」
「儂はこの忍術学園の学園長を務めておる。時に冬紀、」
「はい」



ふと、学園長先生の視線が鋭くなった気がする。いよいよ本題というわけか。私は改めて姿勢を整える。



「以前に二回、おぬしの様に突然現れた女人がおった。その者等は未来から来たと言っており、この忍術学園の事を知っておった。おぬしも、この世界を知っておるのかの?」



学園長先生の言葉に、私はなんと答えれば良いのか分からなかった。だが、此処で「いいえ」と答えても意味がないだろう。きっと学園長先生は、私が前の天女様達と同じだということに気づいている。



「存じております」



ならば、正直に答えるしかあるまい。さて、これからどう転がるのか。私はこの世界で生きていけるのか、それとも今殺されてしまうのか。銀さんに会えないまま死ぬのは嫌だが、足掻いたって無駄だ。足掻いたら足掻いた分、苦しんで死んでいくだろう。



「……では、この世界に来た経緯を話してもらおう」



学園長の言葉に「はい」と頷く。そして、この世界に来る前の事を思い出しながら、口を開いた。



「私は此処に来る前、買い物をしておりました。何を買おうか迷っている時に…――、」



……あれ? 迷っている時に、何かあったはずだ。それは一体何だっただろうか……。
黙り込む私に、「どうされたのですか?」と善法寺伊作が心配そうに私の顔を覗き込むのが分かる。だが、今はそれに気を配る余裕は無さそうだ。私はクシャ、と前髪を掴む。思い出せ。その時、私は何があった?



「女の人の、悲鳴が聞こえて……、その人の目の前に、刃物を持った男が居て、それで、女の人を助けようとして……、」



あの時、私は女の人の前に立った。無我夢中で混乱して何をしたか覚えていないけれど……、「逃げて!」と女の人に叫んだ気がする。



「――…胸を、刺された……?」



そうだ。私はあの時、刃物を持った男に胸を刺されたんだ。それで、その時女の人の悲鳴が店内を包んで……。……あ、それで私の意識は無くなったんだ。
私の呟きが聞こえたのか、学園長先生が眉を顰めて「じゃが、おぬしの足はちゃんと……」と私の足を見て言う。確かに、私の足はちゃんとある。体だって半透明などではない。死んだはずなのに、何故か生きている。まさか、此処は死後の世界、つまり天国だというのだろうか。



「まあ、その事については追々わかるじゃろ。冬紀、おぬしは忍術学園に居てもらうぞ」



え。



「忍術学園の事を知っている者を野放しにしておくわけにはいかんからの。部屋は忍たま一年は組の隣になるが、良いかのう?」
「えっと、くのたまの方で空き部屋は無いんですか?」
「なんじゃ、くのたまの方が良いのか?」
「ええ、まあ」



そりゃそうでしょうよ。同性の方が明らかに安心できるし。それに女の子たくさんいるから目の保養になるし。



「じゃが、生憎くのたまの空き部屋は無いんじゃ。すまんのう」
「い、いえ……、置いていただけるだけでも有り難いので」



くっそォォオ! 女の子達が遠ざかっちまったァァア! 私の心のオアシスゥゥウ! マイエンジェルゥゥウ!



「それと、仕事も少ししてもらうぞ。着物は明日届けさせるから、今日はその恰好で過ごしてくれ」
「分かりました。……あの、着物だと動きづらいので、男性用の袴にしていただいても宜しいでしょうか?」
「……ふむ、まあ、本人が言うなら」
「有難う御座います」



バッ、と頭を下げる。
なんとか衣食住は確保できた。後はこれからの人間関係の問題だけだ。だが、その人間関係がこれからの生活で重要なのである。日々監視され、日々疑われ、日々殺気を向けられる。そんな生活で、果たして私は上手くやっていけるだろうか。まだ殺気を向けられるのは良いとしよう。だが、殺されそうになった時はどうすれば良いのだろう。



「では伊作、部屋の案内を宜しく頼むぞ」
「はい。天女様、参りましょうか」
「あ、はい」



「これからお世話になります。失礼しました」と頭を下げ、私は善法寺伊作と共に庵を後にした。



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