『何もしないというのは、やっぱりなんだか』
空から降って来た美女は、私が命を落としてまでも守った女の子だった。名を、朝倉小夜ちゃんと言うらしい。高校一年生で私より年下だというのに、背や雰囲気は私より年上を思わせるものだ。羨ましい。だが、私は彼女に避けられている。それというもの、自分のせいで亡くなった人物が存在しているからであろう。
「……上手くいかないなあ……」
「恐がらないで」と言っても逆効果だろう。私だって、目の前で亡くなった者が再び目の前に現れたら動揺する。というか、幽霊だと思って泣き喚きながら逃げることだろう。……情けなッ。
「――…お妙さんって、良いよな」
突然、隣から声が聞こえた。驚きながらも隣を見ると、三郎がなにやら真剣な面持ちで立っていた。おいおい、コイツどうしたんだよ。いきなり何なんだ。
「お妙さんって雷蔵に似てるんだ。腹黒いところとか、料理が超絶下手なところとか。だからだろうか、凄く好きなんだ」
ウワァ……。何を言うかと思えば。それは「雷蔵好き好きだーい好き!」という意味でとらえても良いの? ホモ発言だととらえて良いの?
冷めた目で三郎を見ると、三郎が「なんだよ」と眉間に皺を寄せた。いや、だって…、雷蔵に似てるからお妙さんが好きってどうなのよ。雷蔵に似てなくたってお妙さんは魅力的な女性だと思うよ僕ァ。
「雷蔵とお妙さんの魅力なら、いつまでも語れる自信がある」
「語ってる暇があるなら委員会行ってこいよ。もう始まってんじゃないの?」
「ああ、それなんだけどな。学園長先生が冬さんのこと呼んでるんだ」
「……私を?」
私の言葉に、三郎は「ああ」と頷いた。学園長先生が私に何の用だろう。とりあえず、学園長先生の庵に行かなくては。
***
学園長先生の庵についた。「失礼します」と言って障子を開けて部屋の中に入ると、三郎を除いた学級委員会メンバーと、学園長先生が居た。なんでこのメンツ?、と疑問に思っていると、学園長が座るように言った。とりあえず、その言葉に従って座る。
「急に呼び出してすまんの」
「あ、いえ、お構いなく。どうせ暇なので」
「ふむ、それは良かった」
学園長先生はそう言うと、笑った表情を真剣な表情に変える。その表情に、私は何かしてしまったのだろうか、と不安になる。
「女子が、空から落ちてきたようじゃの?」
学園長先生の言葉に、私は内心驚く。もう情報がそこまで回っているのか。私は背筋を伸ばし、「はい」と返事をする。すると、学園長先生は「そうか……」と顔を俯かせた。そして、何かを考える素振りを見せる。これは、まさか……、私追い出されるのでは……。
「冬紀は、その女子と面識があると聞いた」
「あ、はい。私が死んだときに守った子です」
「なんじゃと……?」
私の言葉に、学園長先生が目を丸くして驚く。三郎や尾浜達も、驚きながら息を呑んだ。……あの子も、此処に置いていただくことはできないだろうか。あの子も、今となっては私と同じように一人なのだ。一人で何もできず、生きる術すら分からない。
「あの子の事、どうするおつもりで?」
「まだ分からん。じゃが、放っておくわけにもいくまい」
学園長先生の言葉に、私は頷く。学園長先生が良い人で良かった。これであの子が追い出されるとなると、どうしても居たたまれない。命がけで護った女の子なのだから。
「冬紀、あの女子のこと頼めるかのう?」
……それはつまり、私にあの子の世話をしろ、ということだろう。ただでさえ恐がられているのに、世話なんてできるだろうか。うーん、難しいな。でも、世話になってる身だから断るのも忍びないというかなんというか。
「きちんと出来るか分かりませんが、やれるだけの事はやってみようと思います」
「うむ、頼む。で、そろそろ冬紀の外出や食堂出入りの自由も許可しようと思うておる。冬紀が此処に来て一ヵ月。もう慣れた頃じゃろう?」
「はい」
うおっしゃァァア! これで女の子達とhshsできるぜ、フゥー!
テンションを上昇させていると、とある事に気づいた。学園中や外を自由に行き来できるとしたら、もしかしたら仕事もさせてもらえるかも……?
「あの、当初は仕事をやるという条件があったはずですけど……」
学園長先生に聞くと、「ああ、そういえばそうじゃった」と思い出したように言う。今まで忘れてたんですね。学園長先生は顎に手を当てて「んー」と唸ると、「事務の手伝いをしてもらおうかの」と言った。手伝い? 仕事じゃなくて? ……いや、まあ、学園長先生がそれで良いなら。
「不束者ですが、こき使ってください」