変魂-へんたま- | ナノ

『その不器用な優しさに、伊作は心を開いたのでしょう』


結構早く伊作を見つけることが出来た。
目隠しをされ、手首と足首に縄で拘束されていた伊作は傷だらけて、所々血が出ていた。私達はすぐに丁寧に伊作を担ぎ、忍術学園の医務室へと向かった。医務室に着いたら、保健委員が集合しており、保健委員メンバーは傷だらけの伊作を見て慌てて手当てを開始した。



「ごめんね、皆……」
「謝んなよ。お前のせいじゃねえんだから」
「でも……」



元気が無い伊作に、留三郎が励ますか、正直私達はどう声をかければいいのか分からない。こんな経験は初めてだ。こういう時、先生方ならどうやって慰めるだろう……。



「……、冬さんは?」
「それが、私達保健委員を集めろって言ったまま何処にも見当たらないんです……」



乱太郎の言葉に、伊作は俯く。伊作は以前、「不運」ということで天女にウザがられていた時があった。もしかしたら、そのことを気にしているのかもしれない。あの人なら……、冬さんなら、伊作のことを心配してくれると思ったのだが……、どうやら私の見込み違いだったようだ。
「やはり悪魔だったか、あの女」「そんな……」と、この場に居る冬さんを知っている者の全員が、悔しそうな顔をしている。……と、廊下から慌ただしい足音が聞こえた。私が障子越しに廊下へと目を向けた瞬間、



――スパァンッ



勢いよく障子が開いた。誰もが驚き、開いた障子へと顔を向ける。そこには、――冬さんが居た。伊作が「冬さん……?」と呟いたのが聞こえる。



「おう伊作、死んでないみたいで良かった」
「心配、してくれたんですか……?」
「何、駄目だった?」
「い、いや、そうじゃなくて!」



来てくれないと思っていた冬さんが来たことにより、伊作は動揺して上手く話せていない。そんな伊作に首を少し傾げ、冬さんは横を向いて「ほら、こっち来い」と誰かを手招きした。「は、はい」と声がして、二人の人物が私達の前に姿を現した。



「「「――ッ!?」」」



姿を現したのは、伊作を虐めていた音松円蔵と朧勝之助だった。「何をのこのこと……!」と怒りをあらわにする留三郎に、私は「落ち着け」と止める。冬さんは「ほら」と言いながらその二人の背中を押し、医務室へと入れた。



「な、なんでお前の言うことなんか……!」
「さっきは頷いたけど、僕達は絶対謝らないからな!」
「……学園長先生にバラされたくなければどうぞ」
「「っ……」」



……あんな冬さんは初めて見た。音松と朧を無表情のまま冷めた目で見ている。二人はそんな冬さんに怯え、正座をして伊作に頭を下げる。”あの事”が分からないが、六年生の二人が怯えるくらいの何かがあったんだろう。



「い、いいい虐めをして申し訳ありませんでした!」
「もうしませんから、どうかご勘弁を……!」



音松と朧はそう言い、すぐに逃げるように医務室を走り去って行った。それを見届け、冬さんは伊作に歩み寄る。



「深い傷はある?」
「あ、いえ。あの二人、あまり力は無いような、ので……、ええッ!?」
「ッ!? な、何……!?」



いきなり叫びだす伊作。冬さんだけではなく、私達も驚いてしまった。伊作を見ると、伊作は冬さんの顔を指さして口をパクパクさせている。ふと、近くに居る留が冬さんの顔を覗き込む。すると、「え」と驚いた表情のまま固まってしまった。



「あ、ああああの、」
「ちょ、冬さん! なんで口に傷があるんですか!?」
「しかも頬がちょっと腫れてますし……!」



二人の言葉に、私は耳を疑った。それは私だけでは無いようで、文次郎達も驚いた顔を隠せないでいる。
「冬さん、此方に向いていただけますか?」と私が声を掛けると、「うん?」と言いつつ私の方へ顔を向けた。その瞬間、私も文次郎達も息を呑む。たしかに、冬さんの口角には傷があり、頬は少し赤く膨れていた。「それどうしたんだ?」と聞く小平太の言葉に、「説得しようとしたら殴られたんよ」と呑気に言う冬さん。殴られたあ!?



「学園長先生にバラすってのはコレのこと。あ、乱太郎、手当てしてくんない? そろそろ痛くて我慢の限界だわ」
「は、はいっ」



おちゃらけて言う冬さん。しかし、その目には薄ら涙が溜まっており、相当我慢していたことが分かる。前言撤回だ、見込み違いではなかったのだ。「なんで、僕の為にそんなこと……」と言う伊作の目からは、涙が流れ出ている。冬さんはそのことにギョッとし、「ちょ、おまっ、泣くなよ……!」と慌てている。その姿に、私は少し笑ってしまった。



「あ、あのな伊作、伊作が不運だろうがなんだろうが、私は伊作を手放す気はないよ?」
「っ……うえぇ……!」
「うっそ!? 何で更に泣くの!? ちょ、ちょい留! 伊作泣き止ませる方法教えて!」
「無理ですね」
「爽やかに笑いながら言うなよコノヤロー!」



ああ、なんだ。この人はただ、不器用なだけじゃないか。



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