変魂-へんたま- | ナノ

『手作りの金平糖と青ざめた表情』


「は……、はっくしゅっ! ズズ、ズズゥー! ズビッ」



小雨といえど、雨が降っている肌寒い中庭に出ていた。途中で伊作と食満が来て「中に入れ」と言われ、自室の中へと入る。髪の毛や袴を拭いたが、まだ寒い。そのせいで鼻水が大量に出てくる。あ、詰まった。



「あー…、駄目だコリャ。風邪引いたかも」
「もー、だから言ったじゃないですか」
「私のこと頼んだぞ、伊作」
「はいはい、大人しくしててくださいね」



年下に叱られる私は一体なんなんだろうか。まあ、いいか。それより、この場に食満が居る事が気になる。何か用事でもあるのかな。でも、その割には話しかけてこないし……。



「――冬さん、居ますか?」



障子越しに女の子の声が聞こえた。久しぶりに聞くその声は、きっとトモミちゃんのものだろう。私は「居るよー」と部屋の中から返事をする。「し、失礼します」と緊張した顔で私の部屋の中に入って来るトモミちゃん。
「どした?」と聞くと、トモミちゃんは顔を赤くしながら私に何かを差し出した。それは薄ピンク色の中身が入った小さな袋だった。



「あ、あの、それ、初めて会った時に助けていただいたお礼の金平糖で……!」
「え、お礼? そんな、わざわざよかったのに」
「いえ! その金平糖、食堂のおばちゃんから習って作ったんです。本当は助けていただいた翌日から作ってたんですけど、上手くいかなくて」



「今日やっと、納得できる金平糖を作れたんです」と、恥ずかしそうに俯きながら言うトモミちゃん。手を見ると、ところどころ怪我をしていた。そんなに前から私の為に頑張っていてくれていたとは思わなかった。「トモミちゃん、」と声をかけると、トモミちゃんは恥ずかしいのか顔を赤く染めながら「は、はい!」と返事をした。



「――ありがとう、大事に食べるね」



そう笑って、トモミちゃんの頭を優しく撫でる。少し驚くトモミちゃんだったが、すぐに「どういたしまして」と笑った。ああん、超可愛い、妹にしたい。そう思っていると、少し引っ込んでいた鼻水がまた増えた気がした。ズビッ、と鼻を啜ると「風邪ですか?」とトモミちゃんが心配してくれる。



「んー…、多分? まだ本格的じゃないから分かんないけど」
「昨日暑かったのに今日は肌寒いですもんね……」



ごめんよ、自分から雨に突っ込んだんだ。なんてことは言えず。一通り話し終えた後、トモミちゃんは「御大事に」と言って部屋を出て行った。その際「ありがとー」と再度お礼を言うのを忘れない私。
トモミちゃんが居なくなり、再び私と伊作と食満だけになる。トモミちゃんがくれた金平糖を頬張り、私はニヤける。ふへへ、金平糖だってよ。トモミちゃん嫁に欲しい。



「くのたまとも面識があったんですね」
「っつってもトモミちゃんだけだけどな。他の女の子とも会いたいけど、避けられてるみたいだし」
「ほとんどの人達は冬さんのこと天女だと思ってますからね……」
「マイエンジェル達が遠ざかっていく……」
「あ、伊作、冬さんの為に女装してやれよ」



あり? 食満、今さりげなく私の事「冬さん」って呼んだ?
きょとんとしている私を放置し、「なんで僕が!? 留さんがやれば良いじゃん!」「はあ!? 嫌だっつーの!」と会話をしている二人。……ま、いっか。私もこれから「留」って呼んであげようかねえ。



「いさ子ちゃんと留子さんか。うん、美味しい」
「っ美味しいって何が!?」
「冬さん、僕女装やりませんからね!」
「俺だってやりません!」
「え? なんだって? やるよな?」



ガッ!、と二人の顔を手で掴む。力を入れると、爪が自然と二人の皮膚に喰い込む。「いだだだだだ!」と叫ぶ二人に、私はもう一度聞く。



「女装、やるよな?」
「「……や、やります……」」



二人の青ざめた顔なんて知ったこっちゃない。



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