第3話


「此処が私達の部屋よ」



あれから皆と別れ、シナ先生と自室になる部屋へと来た。中を見てみると、部屋の中はきちんと整理整頓されていて綺麗だった。さすがは美人シナ先生。



「これから小雪ちゃんの部屋にもなるんだから、自由に使ってね」
「はい、ありがとうございます」



お礼を言うと、シナ先生は綺麗に微笑んでくれた。ちょ、コレ大丈夫? 私鼻血出てないよね? ね? 鼻血が出ていないか確認をしていると、シナ先生が「あら?」と呟いた。シナ先生を見ると、視線は部屋の中に行っていた。私もその視線の先を見てみる。そこには、着物と釣竿が置いてあった。



「……まさか……、」



駆け寄り、手に取る。シナ先生が後ろから私の手元を覗くのが分かる。この着物は、太公望殿が来ていた着物。釣竿に至っては、太公望殿が変身したと思われる武器・釣竿型宝貝だろう。……ああ、全く。私に太公望殿のコスプレをしろというのか。面倒だな。



「シナ先生、着替えたいのですが……」
「ん、分かったわ」



シナ先生は人の良い笑顔で返事をし、静かに部屋から出て行った。本当すみません。



「太公望殿、見ないでよ?」
《誰が見るか》



とりあえず武器になっている太公望殿に、そこら辺にあった布を被せておく。よし、これで見えまい。こう見えても私は女の子なんだゾっ。……はい、ごめんなさい。自分で言って自分で悲しくなりつつも、自分の服を脱ぐ。太公望殿の服を手に取ると、中から何かが落ちた。拾ってみると、耳飾りと、三本の棒で作られた金のピンだった。ああ、コレも付けなきゃ駄目なのね。



「――…ふう……」



なんとか着替え終わった。耳飾りもピンも付けて、バッチリOKだ。着替え終わったところで、太公望殿にかけていた布を取る。「どう? 似合う?」と聞くと、「馬子にも衣装だな」と帰ってきた。失礼な奴め。不貞腐れながらも、武器である釣竿型宝貝を担ぐ。自分の着ていた服は畳んで隅っこに置いておいた。



「シナ先生、お待たせしました」



障子を開け、外にいるシナ先生に声をかける。シナ先生は私の格好を見て「まあ……」と驚きの声をあげる。驚くのも無理はない。現代の服ですら珍妙だっただろうに、更に珍妙になるのだから。「変わった着物ねぇ……」と呟くシナ先生に、「はい、仙界の着物ですから」と言うと、首を傾げられてしまった。……御存知でない……? 私は「えっとー…、」と苦笑する。どう説明しようかな。



「私は、この忍術学園を救う為に天から使われた者です」
「え……!!?」



あ、大雑把すぎたかな。でも、大方は合っているはず。ふと、目の前にいるシナ先生が顔を青ざめさせながら驚いているのに気づいた。ぎょっとすると「わ、私、そんな大層なお方に無礼な言葉遣いを……!」と頭を下げるシナ先生。ちょちょちょ。



「いやいやいや、私ただの人間ですから!! ただ天に選ばれただけですから!!」
「で、ですが……!!」
「私達一家は、たまたま天に選ばれただけの一般人なんです。だから、先程通りにしてください」
「そ、そう……、分かったわ……」



焦った。まさかシナ先生が取り乱すとは。



「ちなみに、この武器についても説明しますね」
「え? 釣竿が武器……?」
「はい」



私が担いでいる釣竿型宝貝――太公望殿――を見て、目をパチパチさせている。まあ、無理も無い。釣竿を武器にして戦うだなんて、死んだも同然だ。しかし、これはただの釣竿では無い。



「釣竿なんですけど、武器用に作られた釣竿なので頑丈なんです。それに……、太公望殿、」
《ああ》
「ぶ、武器が喋った……!?」



シナ先生が驚いていると、釣竿型宝貝が、パァァ、と光った。その光は、私の肩から隣へと移動する。次第に光が消えていく。姿を現したのは、男物の着物を着た人間姿の太公望殿だった。シナ先生は「ひ、人っ……」と少し後ずさる。



「彼は太公望。仙界の人で、私の護衛的な役割をしてくれてます」
「よろしく、とでも言っておこう。本来はこの姿なのだが、今は事情があり、小雪に力を与えている」
「そ、そうなんですか……」



唖然としているシナ先生。けれど、落ち着きを取り戻してきたのか、先程よりは取り乱してはいない。



――ボフンッ
「ゲホッゲホッ……うえぇ……!! ゲホゲホッ!!」



途中吐きそうでしたけど大丈夫ですか。煙と共に現れた人。それは皆さんご存知の学園長先生だった。



「話は聞かせてもr、ゲホッ……らったぞ!!」



咳のせいで言葉が途切れたけど、なんとか聞き取れた。いつから居たのかは分からないが、学園長が隠れていたおかげで説明する手間が省けた。少しホッとしていると、「ということで、今からおぬし等を生徒達に紹介する!!」と学園長が言いだした。え。



「今から庭に集合じゃ!! シナ先生、案内をよろしく頼むぞ!!」
「はい、分かりました」
「え、ちょ、待っ……!」
「諦めろ、小雪」
「さらばじゃ!!」



再びボフンッ、と煙を立てる学園長。煙が完全に消えた頃には、学園長は既に居なくなっていた。ああ、なんてこと。人見知り&目立つことが嫌いな私が、あんな大勢な人の目の前で自己紹介なんてできるだろうか。やべ、お腹痛くなってきた。行きたくない……。

 
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