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「いやァ、すみませんねェ。うちの子が暴れたみたいで」
「よいよい。向こうから攻撃を仕掛けてきたらしいからの」
「あ、これお詫びといってはなんですが、どら焼きを……」
「おお、すまんの」



なにコレ。やだコレ。なんか、学校で喧嘩した生徒の親が直接会って和解してるみたいな感じなんだけど。意味分からん。個人的に気まずい雰囲気に視線を落としていると、隣にいる雑渡に「真白、怪我は?」と聞かれた。私は渋々「……腹に一発喰らったけど、それ以外は何も」と答える。



「負けた?」
「負けてねぇよ」
「俺が一緒に戦らなきゃ負けてただろうが」



壁に背を預けて言う高杉の言葉に、私がギッと高杉を睨む。しかし、高杉がそっぽを向きながらニヤリと笑った。ほんっと、アイツ憎たらしいな……!! 気を取り直し、目の前にいる学園長に視線を向ける。



「あの、悪かったな。忍術学園で暴れちまって……」
「おぬしが謝ることではなかろう。好きで暴れたわけじゃないだろうしの」



いや、そうなんだけどさ……。そんな巻き込んじまったのは事実だし、暴れちまったのも事実だし……。



「で、その敵さんはコテンパンにしたんだよね?」
「おー、多分もう襲ってくることはねぇと思うぜ」
「そう。もしまた来るようなら、今度は私が応戦するよ」
「えー、惨めになるからやめてくんない?」



眉間に皺を寄せて言うと、雑渡はクツクツと喉で笑った。楽しそうな奴。溜め息を吐いて、頭をボリボリ掻く。と、雑渡が「女性がそんな行動するのはやめなさい」と注意してきやがった。良いんだよ、これが私流なんだよ。……そういえば……、



「高杉ってどうやって此処に来たんだ?」



高杉へと顔を向け、そう聞く。高杉は私の言葉に「ああ、それは……」と言いつつ、懐からとある物を取り出し、「コイツで此処に来た」と言った。……って、オイそれ……、



「ただの懐中電灯じゃねぇかァァアアアア!!!!!」



デタラメ言ってんじゃねぇぞチビ!! クソチビ!! 懐中電灯で異世界飛び回れるわけねぇだろうが!! あぁ!!? 100歩譲って大きさを変えれるひみつ道具の懐中電灯だよ!!!



「コイツァただの懐中電灯じゃねぇ。天人と手を組んだ際に貰った”異世界飛び回れる君”だ」
「お前いつからボケに走ったわけ?」



どこからどうツッコめば良いのか……。思わず項垂れてしまう。なんかコイツと居ると疲れるし泣きたくなる。「世界をぶっ壊す」とか厨二全開だった痛いシリアスなアイツは一体どこに行ったんだよ。



「コレを貰った時、坂本に会ってな。そこで、お前が行方不明になったことが知らされた」
「……あのモジャも知ってんのか」
「相変わらず呑気だったがな。俺はお前を探そうと、コレを使って此処に来た。で、お前に会ったわけだ」



するってーと何か? 本当にその懐中電灯を使えば異世界に行けるってことか? え、マジで? 唖然としていると「つーことで、帰るぞ」と高杉が言った。その言葉に、少し間を開けながらも「……ああ、そうだな」と返事をする。帰れる方法が見つかったんなら、もうこの世界にいる理由もねェ。タソガレドキの奴等とも、忍術学園の奴等とも、もう会うことはねェってわけだな。チラッ、と雑渡を見ると、雑渡は私を見ていた。



「……帰るの?」
「……そうなるな」
「……ふーん」



雑渡はそれだけ言って、立ち上がった。そして、背を向けた。でも、それだけで、そこから動く気配はない。オイオイ、なんだよ。ふと、微かに肩が震えていることに気づいた。……嘘、泣いてんの……?



「雑渡……?」



名を呼ぶけれど、雑渡は返事をくれない。私に背を向けたまま、そこから動くこともないまま。どうしたものか。とりあえず立ち上がり、雑渡に近寄る。どうしようか迷ったけれど、私は雑渡の背中に手を置いた。



「……今までありがとな。お前等に会えて、本当に良かった」



……なんだよ。泣くことのない雑渡が泣くから、私まで泣けてきたじゃんか。ちったァ我慢しやがれ。……我慢、できねェな。目から、涙が溢れ出てきやがる。くっそ、止まれよ……。



「忘れ、ないからっ……!! 絶対に、絶対にっ……!!」



ふと、グイッ、と腕を引っ張られた。ポスッ、と誰かの胸板に頭が当たって、後頭部と腰を誰かの手で抑えられた。この匂い、雑渡の匂いだ。そうか、私は今、雑渡に抱きしめられてるんだ。普段こんなことしねェくせに。お前のせいで、涙腺弱くなっちまったじゃねェか。



「……お前は、居なくなってもタソガレドキの一員だよ」
「……ああ、分かってる」



三回ほど頭を撫でられ、体を放された。顔を見上げて雑渡を見ると、少し腫れた目から涙を流していて、微笑んでいた。……全く、馬鹿な奴だ。忍がこんなところで感情剥きだしで良いのかよ。本当、馬鹿な奴。どうしようもなく、大好きだっつーの。



 
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