Act.10

「放課後面倒だなー…、授業も面倒だなー…」と思いつつ、授業中はこっそり落書きをしながら時間を凌いだ。配布されるプリントに好きな漫画やゲームのキャラクターを描きまくって、先生の視線がこっちに向いたら「自分頑張って勉強してますよアピール」をして。そうこうしている間に、放課後になってしまった。



「……やっぱり行かなきゃ駄目ですかね?」
「そうですね、行かなきゃ駄目ですね」



クラスメイト達が次々と帰り、今朝喋った悠ちゃんや留美ちゃんも私達に一言「また明日」と声をかけて帰ってしまった。鞄を抱えて項垂れていると、夏菜に「腹括って行くしかない」と言われた。



「城阪、御剣、行くぜーぃ!」



なんだかテンションが上がっている状態で、丸井がこちらに小走りで来た。その後ろにいる仁王も気だるそうに歩み寄ってくる。男子集団の中に行くには勇気がいるというのに、丸井ってば女心を知らない奴め。行きたくなさすぎて内心毒づいていると、



「あ、いたいた」



と綺麗な声が聞こえた。四人で声のしほうを向くと、教室の開いている引き戸のところに幸村君がいた。「迎えに来ちゃった」と笑みを浮かべながら言う幸村君は、そのまま教室の中に入ってくる。そして、私達に「行こっか」と声をかける。部長自ら来たとなると、やはり行くしかないようだ。



「ジャッカル達が待ってるだろうし、お腹も空いてるし、さっさと行ってさっさと帰ろうぜぃ!」



丸井はそう言うと、私の手首を掴んで歩き出した。普段こういう風に男子に手を掴まれない私。恥ずかしくて何か言おうと思ったが、丸井はなんとも思っていなようだった為諦める。こっそり溜め息をつくと、後ろから「ブンちゃんは女心を分かっとらんの」と言う仁王の呟きが聞こえた。本当それ思う。




 ***




屋上に行くと、気持ちの良い静かな風が吹いた。夏ということもあって、その風は涼しい。丸井に引っ張られるがまま、既に私達を除いて揃っているレギュラーの輪へと入る。左隣に丸井、右隣が切原君になった。夏菜に顔を向けると、幸村君と桑原君の間に座っていた。……おのれ幸村君……。



「さて、合宿のことだけど、」



皆が座るのを確認すると、幸村君が口を開く。それにより、全員の視線が幸村君に向く。幸村君は数枚の紙を持っていて、一枚抜くと、左右隣の夏菜と真田君に数枚渡して回すよう言った。真田君の隣が切原君である為、紙はすぐに回ってきた。



「どうぞッス」
「ありがと」



丁寧に渡してくれる切原君から数枚の紙を受け取り、自分の分を取って左にいる丸井に「ん」と残りを渡す。丸井は「さんきゅ」と言って受け取った。紙に書いてある文をじっと読んでいく。どうやら初日の集合場所と時間、持ち物に関してのようだ。



「紙に書いてあるように、朝七時に正門に集合ね。持ち物欄に書いてある物以外で、本とか愛用の枕とか、自分が必要だと思う物も持って行って良いみたいだよ」



幸村君の言葉に、左右隣がピクッと反応する。いや、反応したのは私も同じだ。私達三人が反応したことに気づき、幸村君が「三人とも、何か持って行きたいものでもあるの?」と聞いてくれた。



「ゲームしたいんスけど、ゲームも良いッスか!?」
「お菓子とかケーキとかも有り!?」
「学校では許可されてるけど、化粧って合宿の時やってても大丈夫?」



一気に質問する私達に、幸村君は苦笑する。副部長である真田君は「一人一人話さんか」と呆れている。でも私達にとっては重要なことなのよ、真田君。本当はゲームも持って行っても良いか、ってことも聞きたかったけれど、切原君に先を越されてしまった。



「ゲームもお菓子も持って行けるなら良いよ。ケーキはお腹壊すといけないからやめておこうか」



幸村君の言葉を聞き、切原君は「よっしゃあ!」と喜ぶが、丸井は「ちぇー、ケーキは駄目かー」と項垂れる。まあ、確かに夏だし傷むと食べれないしな。それにしても、ゲームも大丈夫なのか。なら何のゲーム持って行こうかな……。



「で、御剣さんは今化粧してる?」
「ああ、うん、してる」



ゲームの事を考えていると、幸村君に話しかけられた。内心驚きながらも頷くと、右隣の切原君が「へえ」と意外そうに声を漏らした。幸村君は幸村君で、私の顔をじっと見ている。じっと見られるのは苦手だが、ここは我慢する。



「んー…、厚くないし、そのくらいなら大丈夫だと思う」
「あ、ほんと?」
「うん、遠くから見たら分からない程度だから」



優しく微笑む幸村君に「そっか」とホッとする。正直、「合宿では化粧禁止」って言われたら一週間マスクをつけて過ごそうって思っていた。別に、自分のスッピンが凄く嫌いというわけではない。ただ、ニキビもあるし、眉毛は元々薄いし……、化粧をしている自分のほうが可愛いと思っているから。それに、人前では出来るだけ良くありたいし。



「話は以上かな。ちなみに、当日の朝遅刻した人は俺からの鉄拳を与えるからね」



キラキラとした笑顔で怖いことを言う幸村君。レギュラー陣はお馴染みなのか顔を青ざめている。一方、私と夏菜は腹黒い幸村君を見るのは初めてで、まさかこんな怖いことを言うなんて思わず、ただ驚いている。……腹黒い幸村君、破壊力抜群だわ……。



「ってことで解散。合同合宿、皆で頑張ろうね」



次はいつも通りの優しい笑みを浮かべて言った。そのことに安心しながら、コンクリートの上に置いた鞄に手をつけ、自分の元に引き寄せる。



「御剣先輩、本当に化粧してるんスか?」



横から声をかけられ、私は驚きながら声のしたほうに顔を向ける。「ん?」と言いつつ切原君に聞き返すと、切原君は私の顔をじーっと見た。「え」と思いつつも、私は少し引き気味に切原君の顔を見返す。こうやって見ると、切原君も顔のひとつひとつのパーツが良い。友人曰くお姉さんがいるらしいけど、そのお姉さんも顔が整ってるんだろうなあ。…………、



「あんま見られると、ニキビが……」



バレちゃう。私の言葉に、切原君は「はあ、すみません」と言いつつも、私の顔を見続けている。うおおん、どうしよううう。化粧でニキビ隠してるからバレたくないっ……。それに男にじっと見られるの慣れない好きじゃない苦手。さっと視線を逸らし、持っている鞄に視線を下ろす。



「先輩はアイライナーしてないんスね。あとマスカラとかつけまとかカラコンとか」



……切原君詳しいのね。お姉さんから教わったのかしら。



「学校だからいらないかなって。でも友達と遊びに行く時はアイライナーもマスカラもするよ」



ただつけまやカラコンは下手だし怖いから出来ない。気分によってはアイシャドウもします。ただ面倒だからほぼやらない。私の言葉を聞き、切原君は「へえ」とまたまた意外そうに言った。しかし、すぐにニッと元気な笑顔を浮かべる。



「でも、ナチュラルメイクの御剣先輩、可愛いッス!」



お、おう……。



「ありがとう」



家族以外の異性にこんな直球に言われたことは初めてで、私は照れてしまう。でも嬉しくて笑みを浮かべる。と、その時、肩に手を置かれた。顔を上げて見ると、そこにはいまだに残っている夏菜の姿。



「切原君、あたしの希代に手出さないでね?」



ニコッと笑みを浮かべながら言う夏菜に、切原君は苦笑する。ならばお返し、と私は立ち上がって夏菜の肩に手を回す。



「夏菜は私のハニーだから、そこんとこシクヨロ」



丸井のお決まりポーズのピースサインをし、丸井のお決まり台詞のシクヨロを使う。そのことに、まだ残って桑原君と喋っていた丸井が反応し「それ俺のパクリ!」と文句を言ってくる。これぐらい良いじゃないの。



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