mission.01
「鬼月、許可をくれないか?」
朝、いつものように学校へ来た。
できれば、親友である來海と一緒に学校へ登校したいけど、家が正反対のため、それはできない。「はあ」と溜息をついて、履いていた革靴を下駄箱の中へ入れる。上靴を履き、いざ教室へ向かおうとした。だが、それは適わなかった。――…目の前に、あの有名な男子テニス部所属・手塚国光が居たからだ。
「えっと……?」
手塚とはあまり話したことないし、許可というものが何のことなのかさっぱり分からない。「なんで有名なあの手塚に話しかけられてんの私!!?」と内心テンパりつつ、平常心を保とうと頑張る。とりあえず「何の許可?」と聞いてみた。
「沢田が、なかなかマネージャーになってくれなくてな……」
「どうしてだろうか……」と、顎に手を当てて考える手塚。……いや、あの子は薙刀部なんだけど……。手塚といえば、我が青春学園高等部男子テニス部の部長。それに加え顔が整っていることから女子生徒の人気もあるし、優等生であることから教師からの人気もある。
「あのさ、なんで急に來海をマネージャーに?」
これは素朴な疑問で、深い意味はない。けれど、私の言葉に、手塚は顔を真っ赤にさせて「い、いや、その……!!」と珍しく焦った。その反応を見れば誰だって「ああ、そういうことか」と勝手に解釈して勝手に納得してしまう。
「まあ、なんとなく事情は分かった。でもさ、來海の意見は無視するの?」
言葉にした後に「少し言い方がきつかっただろうか」と私は不安になりつつも、手塚を見る。手塚は私を唖然と見ながら、「確かに、そうだな……」と呟いた。來海は薙刀部が大好きで、きっと生きがいにしているだろうから、無理矢理、というのは好ましくない。
「私は、來海が良いっていうんなら止めないよ。でも無理矢理マネージャーにさせる気なら……、容赦なく私が手塚を殴る」
真剣な目で、手塚を見る。私は何もできないただの女子高生だけど、親友の意志は守りたい。ちょっとした脅しのつもりで言ったのだが、目の前にいる手塚はフッと穏やかに微笑んだ。
「鬼月は、沢田が大事なんだな」
ふいに、そんなことを言われた。正直驚く。手塚がこんなふうに微笑むことも、このタイミングでそんなことを言われたことも。普通なら「なんだテメェ」って言われてもおかしくはなかったのに。……こんな人に出会うのは、來海以外に初めてだ。だからか、少し興味が湧いてきた。
「ねえ、手塚。良いこと教えてあげる」
だから、手助けしたくなった。手塚なら、きっと來海も許してくれる。……多分。まあ何かあったら私がすぐに駆けつけて手塚を殴るけど。
「――…來海は、一途な男に弱いの」
そう言って笑みを浮かべる。すると、手塚が目を丸くして驚く。來海は完璧だけれど完璧じゃない。綺麗な顔をしているから、顔目当てで告白されてきたことが多かった。けれど、過去に一人。來海に猛アタックして振り向かせた男がいたのだ。まあ、あれは小学高学年の時だったし、結局一年で別れちゃったから顔も名前もあまりハッキリと覚えてはいないんだけど。
「じゃ、そういうことで。頑張ってね」
手塚の肩を、ポンッ、と叩いて私は教室に向かった。ま、後は手塚の行動次第かな。
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