「慰める」

※南視点です。

冥府に来てから、東ショウコさんはいつも泣いていた。
朝にあつあつのコーヒーを淹れ、それを手に窓辺に座り、
陽が落ちて真っ暗になってから、冷たいコーヒーを飲み始めるのだ。
白いワンピースを着て、窓から射す月明かりが彼女を引き立てる。
しかし、その泣き声はとても、とても、悲しい声だった。
寮の隣部屋に北と住んでいた私は、毎晩すすり泣く声を壁越しに聞いていた。


そんなある日の夕方、私は東さんと二回目のキスを交わすことにした。


「ねえ、ショウコさん。一緒にオセロで遊ばない?」

当時、北とのペアルックで長い髪を三つ編みにしていた私。
髪と首筋に、惚れ薬をたっぷり含んだコロンをふりかけて、東の隣に座った。
そして、三つ編みを解く。

涙で潤んだ瞳が美しい。泣き腫らせて赤い目元は、まるで初めて男を誘った少女のようだった。
黒曜石のような、狂気で不透明だがときどき窓の光を受けて輝く瞳。

「毎日泣いてばかりで、疲れるね。」

両手でそっと東さんの頬を包み、瞳をじっと見る。自分でもうっとりしている自覚があった。
――大福のような白い肌、黒曜石のように美しい瞳、粉砂糖のような甘い香り。
この仕事を初めて何十年も経つが、こんなに強くそそられる存在に出会うとは。
まるで、喉の渇きが強い時に眺める果実のような存在だった。

彼女の額にキスをして、抱きしめて背を撫でる。
床にコップが落ち、ミルクとコーヒーは床板の上で乱暴に混ざり合った。

「……え、うそでしょ、南さ………」

ハッカの味がするキス。混ざり合う唾液。
どうやらキスははじめてではないようだ。
東の冷たい指が、私の髪を手で漉き、匂いを確かめている。
死んだあの日とはまた違う、甘い匂いがした。

「これ……なに……」
「ショウコさんが、朝にはよく眠れるように、おまじない」

ボーっと上気した様子で、東は少し笑った。
そのまま狭いベッドになだれ込むと、私は率先して、簡単な愛撫を楽しむことにした。

今回は、優しく頬にキスをし、見つめあいながら、
そして微笑みじゃれあいながらこの日は終わった。

 ★

翌朝。北が東さんの部屋にやってきた。

「あ、脱がなかったんだ。もったいない。
 南はね、心のオアシスって感じの愛情の注ぎ方をするんだよ?すごく安心したでしょ。
 ……まあいいや。今朝はいいパンケーキが焼けたから一緒に食べない?」

北の持つトレイの上では、はちみつとメイプルのソースをたっぷりかけたパンケーキが湯気を上げている。

「いるいる!いつもありがとうね、北さん。」
私は喜んでパンケーキを取り分けて、紅茶をカップに注いでいた。

「あの、私もたべていいですか?」と東さんが言い終わる前に、
北はパンケーキを東に差し出した。

「どうぞどうぞ。俺のハニーはかわいかったでしょ。」
そういいながら、ホイップスプレーで東さんのパンケーキーにスマイルマークを描く北。

「今度は俺にも味見させてね」

東さんの耳元で北がささやくのを見て、私はクスクス笑った。

「ありがとうございます、えっと……北さん。」
「簡単な名前なんだから覚えてよ東さん……」


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