氷と砂糖

僕が最初に覚えた魔法は、指先に氷の針をつくる、というものだった。
南が言うには、この国に来て誰もが最初に覚える簡単な魔法だ、と言っていた。
さみしがり屋さんは指先に氷の針を、情熱的な恋は唇に体温以上の熱を宿す、と。
それはイロと呼ばれる力を宿す酒で目覚め、住民でなければ帰るころに忘れるが、
冥府公務員となるとその力は成長するそうだ。
南と僕は、偶然ながらも甘く冷たい氷菓子のようなキスも最初に覚えた。
ガムシロップを飲むような甘くねっとりしたキスだった。

この国で魔法を使うとなると、感情の制御のみでは最初のうちは難しい。
慣れれば、少しだけ感覚を思い浮かべるだけで、とかでできてしまうそうだ。
慣れないうちは、魔法初心者用のカードを出し、口語体の呪文を唱え、イロを魔法に変換する。
(「ピクトマンサーの集い」で使うようなカードによく似ている)

まだ僕の髪が長かったころ、南が手取り足取り魔法を教えてくれた。
南も北に魔法を教わっている最中だったそうだが、それでも教えてくれるだけの技量はあった。

僕が悪い夢を見たとき、枕元に置いておいたグラスの水をうっかり凍らせてしまったことがあった。
雪のような模様を浮かべ、水は宝石のようにキラキラしながら凍った。
どうしようかな、と思い、手に取ってしばらく眺めていたが、
ふと、昨晩、南の部屋から嬌声が聞こえ、グラスの氷は水蒸気になって蒸発した。

「うわっ、あっつうー!!!」

思わず声を上げたが、隣の部屋からは笑い声が聞こえた。

「ば、ばか、アンタらのことじゃない!」と僕は反論したが、
「お似合いだってさ」と北が爽やかに南を口説くものだから
僕が手にしていたグラスが溶け、飴のように床に落ちて焦げた。
いやん、と笑う南の声も聞こえた。

「ば、ばか、ばかやろう!いつか私もかわいい女の子口説いてよろしくしてやるわよ!!」

僕はそう叫んだ。

それからしばらく、寝酒が蒸発してしまったり、朝のお茶がキラキラの氷になったりを繰り返したが、
しばらくして、火力を使わず茶を沸かす程度には、力を調節できるようになった。
ザイエ一家のように科学で魔法を作りだずのではなく、純粋に自分の力でできることに驚いた。

力になれてきたころ、仕事が終わると、茶さじの上の角砂糖に濃い酒をを含ませ、
ちょっと集中して発火させてあそんだものだ。
もちろん、すぐ火を吹き消して、ダージリン・ティーに溶かして味わった。
今でも真夜中のひそかな楽しみとしてやっている。


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