プロローグ
北 明子(きたあきこ)はタバコを吸いながら、封筒の中のお札(おふだ)を数えていた。
黄色、赤、青、緑……。様々なマーブリング模様が染み込んだ、特殊な紙だ。
「ありがと、助かります。」
そういうと、隣で裸で寝転がる女性の額にキスをして、棒付きキャンディーをいくつかカバンから取り出した。
「ご依頼の飴です。夢見飴を舐めれば、どんな夢でも見られますから。おひとついかがですか。」
北は棒付きキャンディーの包みを剥いて、女性に差し出し舐めさせた。
「これを、舐めたら、あの歌手、と……。」
「どんな夢でも叶いますから。おやすみなさい、また来ますので。」
北はにっこり笑った。不気味なほど、紳士的に。
*
日も昇らない早朝の南船橋駅。そこにはあの世の「なんでも夢がかなう街」、ハテノ街にいく電車が来る。
待ち合わせたわけでもないのに、そこには二人の、紳士向けの喪服を着た者がいた。
ぱっと見は無個性だが、よくみると少女のあどけなさを残すその二人。と、北は、「蒼百合の誓い」という組織の人間だ。
様々な人間から、イロと呼ばれる力を集めるのが仕事だが、そのスタイルは自由とされている。
そこで、北・南・東イロを少量溶かした「どんな夢でも望みどおりに見られる飴」-夢見飴を作り、
表向きは裸で抱いた対価に(実際には、イロという力を奪っている)、見返りとして渡している。
まるで、現実を伴うサキュバスのような行為を仕事としている。
……本当は、三人とも冥府公務員であり、ランクの高い死神なのだが。
「北―!おつかれ!!コーヒー飲む?」
この茶髪のボブカットの人間は東ショウコ。若干発狂しているものの、明るく元気なムードメーカーで、下ネタを好む。
好きな食べ物は豆腐で、普段は“おじさん”に擬態している。性対象はほぼすべての生き物。
「お疲れさま、北。」
そう囁くように言い、北の頬にキスしたのは南 京子(みなみけいこ)。
普段は女性事務員のようなタイトなミニスカート姿に、茶髪におだんご頭という格好で、
地味な様子だが、とびきり素敵な下着を身に着けている。
ちなみに、北 明子は自慢の白い髪を揺らし、編みたての左の三つ編みにお気に入りのリボンをつけている。
「ねえ聞いてよ北、今日抱いた子のおっぱいすごく大きかった!しかもすっごく柔らかい肌だったよ!!!」
などと無邪気にはしゃぐ葬式饅頭肌の東に適当な相槌をつきながら、三人はがらりとした電車に乗る。
北と東の間に南を座らせ、まるで女子高生かのように楽しそうに騒ぎながら。
ハテノ街まで三時間。ゆっくり缶コーヒーを味わい、雑談しながら三人は帰路に着く。
*-^-*
2018.2.24-19:34 opening(草稿)
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