雨の日、海にて

雨の日、先輩は、びしょ濡れの格好で海辺を歩いていた。

「子猫、どこかな、子猫。」

片手のビニール袋には、猫缶と鰹節。それと、冷めた缶コーヒー。
ふらりふらりと揺れながら歩く。
寒すぎて、寒いことすら感じない。

こんな雨の日に、地域猫なんかいるわけないのに。
それでも、先輩はかじかんだ足を引きずって猫を探していた。

陽も落ちてきて、遠くの街明かりが幻想的な絶望を紡いでいた。

(もしかして、あの日の子猫は死んでしまったのかな。)

先輩は、絶望に押しつぶされかけて、大声で泣き出した。
雨と波とともに泣き、声は海浜にむなしく響く。

「先輩!やっと見つけた!」

そこには、雨合羽をびたびたと翻しながらやってきた相棒。

「君…?」

相棒は先輩を無言で抱きしめた。

「先輩……!先輩!!心配したよ!どうしてこんな雨の中!」
「だって、怪我をした子猫が…、子猫がこんな雨の中……!」

抱き合う熱は尊く、ひりひりとする。しかし、体温はわずかな安堵を誘う。
先輩は相棒の頬に触れ、(暖かい)と、呟いた。

「お前、そろそろ帰ろう。早くしないと、この子が風邪をひいてしまうよ。」
「この子……?」
「ほら、この子。」

相棒は持っていたバスケットのふたを少し開けた。そこには、先輩の探していた子猫がいた。
先輩は涙を流してありがとうとつぶやいた。

 *

バスの中、二人はひっついて手を握っていた。
家に帰る前に、先に動物病院に向かうことにした。

冷たい二人は、指先の互いの冷たささえ、恋しかった。


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