ハチミツ
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水に絵を描いても、すぐ消えてしまうように
梶原くんの笑顔も、いつも残酷なほど残らない。
水に絵が描けないように、
梶原くんの気持ちもあらわにならない。
もっと知りたいのに、知る術がわたしにはなくて
それなのに梶原くんは、わたしのこと、なんでもわかっちゃうみたいなんだ。
★☆★☆
「白花さん、大丈夫?」
大丈夫じゃありませんっ!
6時間目の美術の時間、となりのひとの姿を絵に描き合う授業をした。わたしのとなりは、学校イチかっこよくて優しい王子さま・梶原南くん。
向かい合った瞬間、キャンバス越しに視線が重なってしまって、そんなんだからわたしの手は緊張のあまり動かなくなり……
梶原くんの、なんでもこなしちゃう手がわたしをキャンバスに描いていると思うと、目が離せなくて……
――気がつけば授業が終わっていた。
課題は当然のように今日中に提出で、みんなは授業内にさっさと終わらせて帰ってしまったけれど、終わらなかったわたしは、当たり前に終わっている梶原くんと共に居残り。
わたしとペアだから、梶原くんまで残るハメになってしまって…。
「ご、ごご、ご、ごめんね!わたしが終わらせなかったから梶原くんに迷惑を…っ」
「いいよ、ゆっくり描いてよ」
っ、っ、っ、っわああ!梶原くんが!あの梶原くんがわたしにほほえみを向けていらっしゃる…!!
心臓がばくばくしてらっしゃる…!!
梶原くんに気づかれないように必死でポーカーフェイスをつくるも、手は震えてなかなか描けない。
梶原くんはもう課題を終えているから、わたしを真っ直ぐ見る。
ご、拷問だ。神様鬼畜。天国か地獄かもわからない。
だって、わたし………
「白花さんってさ、もしかして俺のこと好きなの?」
「はっ、はい!…って、わああ!」
な、何言ってんのわたし、ばか!ばか!ばか!
てゆーか、急になんですか梶原くん!なんで知ってんですか!
「はっ…白花さん、わかりやすすぎだから」
そう言って息を吐くように笑う。
あ、そういえば、こんな風に笑っているの、はじめて見た気がする。
思わずじっと見つめてると、そんなわたしを見て原くんはまたクッと笑った。
「で、絵はできた?」
「あ、ごめん、今すぐに描くから……」
「ゆっくりでいーって」
う。でもなぁ。
「はやく帰りたくないの?わたし、梶原くんの優しさに甘えてばかりはいや。」
「ふっ。描けてから言えっての」
「う、ごめん」
なんか、今日の梶原くんはいつもとちがう。なんか、優しいけど、いじわるだ。
「ゆっくりでいいから。長くいれるだろ?せっかくふたりきりなんだし」
え!?な、なんですか、それ!意味は!?意味はなに!?
聞こうと顔を上げると、梶原くんが椅子から立ち上がった。え、なんか、近くなってません??
「なぁ、なんで?」
「なっ、なにが!」
なんで?はこっちのセリフだ。
なんで、近いてくるんですかこんなに近いんですかなんで!?
「絵、得意じゃん。なのになんで描けないの?」
ついに手が届くキョリまで近くなってしまったみたい。
梶原くんの手が、わたしの髪に触れて、一束撫でるように優しく掴んだ。
「そ、れは……」
ひゃあああっ。ち、近い近い近いです!
心臓が、やばいですよー!
そんなわたしの様子も梶原くんはわかってるくせに知らん顔で、いじわるく微笑みを落とすだけ。
王子さまの笑顔、今じゃ甘い凶器のような破壊力…!わたし、ほんとに心臓が壊れてしまいそう。
「目が合ってもすぐに反らすし」
「それはたまたまだよ!うん!」
「なら今俺の目見てよ、ずっと」
なぬぅうぅぅ!そ、それはかなり無理が。いやいや、でも、ここで見れなきゃ完璧にわたしの好意はバレてしまう。み、見なきゃ。見なきゃ、梶原くんの、あの煌めいたすてきな目を。
決心を固めてっと顔をあげると、梶原くんと目が合った。……かっこいいー!しんじゃう!
「っはぁ!無理です!」
まるでプールに沈められたような感覚!息がうまくできなくて、息継ぎを求めるような感じでわたしは梶原くんから目を離した。
「ふーん。俺のことが見れなくなるくらい、好きなんだ?」
な、なぜだ……。
「なんで、わかってるくせに…疑問形なんですか…」
「なんでって、言わせたいからだよ?」
「……でも、梶原くんは、わたしのこと、べつに好きじゃないでしょう…?」
自分で言って、せつなくなる。
でもきっとその通り。梶原くんはすらすらと、わたしの絵を描けるんだもん。わたしとは正反対だ。
「片想いってわかってるのに、告白なんか、つらくてできないよ…」
なんて、こんなこと言ってる時点で。
ううん、言わなくても、梶原くんはわかってしまうんだ。
やっぱり、梶原くんは、すごい。すごくて、かっこいい。
「ばかこゆず。」
「…え、今、梶原くんばかって言った?」
「言った。意外?」
「う、うん、意外」
「俺はこゆずとちがってわかりくいんだよ。」
「え………っ!」
梶原くんのうでがわたしの背中にまわった。
びっくりして顔をあげると、ほんのり赤くなった梶原くんがいた。
もしかして、照れてるの?
「俺は、意外と言うこと言うけど、素直じゃねーんだよ。こゆずから言ってくれないと、こゆずが好きなことも素直に言えねーの!」
な、な、な、な!なにこのかわいい生き物は!告白したいですわたし!
「す、好きです!わたし、梶原くん好きです!」
「知ってるよ」
「い、言わないじゃんよ…?」
「言うかよ、だまされんなよ」
なー!ずるい!ずるい!
…でもなんか、梶原くんらしい。
「じゃあ、あの、絵、描くので…」
「離せないから」
「えー!」
「このまま描けば?」
「む、無理だよー!」
とんでもない王子さまだ!むしろ悪魔で、大魔王で、俺様で、それで、それで……
「離れたくねーんだよ、俺の気持ちくらいわかれ、こゆず」
「う、」
やっぱり、王子さまだ。
「…じゃあ、もうすこしだけ」
わたしの、王子さま。
梶原くんの気持ちはわかりにくいと思ったけど、どうやら、わたしとまるっきり同じみたいです。
おわり
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ハッピーバースデートゥ・こゆずちゃん!!
……とは言えないくらい遅れてしまったので、誕生日おめでとうも兼ねた日頃のお礼小説です。遅くなって大変ごめんなさい!
こゆずちゃんと『心配性カノジヨ!』の梶原南でした!いかがでしょう……ただひたすら甘口いじわる言って、"こゆず"が慌ててるだけで申し訳ない!低クオリティ!
愛だけは、南と一緒にたんまりと詰めこみました(*´ω`*)
生まれてきてくれて、わたしと出会ってくれて、本当にありがとう!こゆずちゃん大好きです!
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