泡雪のなかのカウントダウン 大晦日の夜会おう、とアズを見ると、アズは照れたようにマフラーに顔をうめて「ウン」と言った。 アズは不器用だ。長い髪も上手に結べない。 そんなアズが、初詣をするために、淡い黄色の着物を着た姿を見たときはおどろいた。 「お母さんに着付けてもらったんだ〜」 いつもとちがう格好ができたからか、アズはとても上機嫌。髪もきれいに繕っていて、かわいい。首筋が、いい。 「里翔!わたあめ買ってくる!」 「ん、ここで待ってんな」 アズは甘いものが好きだな。 列に並ぶアズの背中に、思わず笑みがこぼれる。しばらく姿を追っていると、ケータイがバイブした。画面を見ると、いつものヤツ。 「もしも…」 『あー里翔!あけおめことよろ〜!』 「…まだ年明けまで20分あるよ、夕太」 『堅っ!ええやろべつに〜気分はもう明けとるんよ!』 そんなの夕太だけだ。まだ世界は新しい年を迎えてない。…そうは言わないけど。 『つーかどこおるん?神社来とるやろ?』 「わたあめのところ」 『あぁ、アズと一緒なんや。じゃあええわ!リア充邪魔できへん!』 「夕太はみんなと一緒だろ?見かけたら声かけるよ」 『おー。じゃあ、よいお年を』 そっちもな、とだけ返して電話を切る。 顔を上げて列に目を向けると、アズの姿がなかった。 は?? どこにもいねーんだけど! 「まじかよ…!」 この人混みのなかで、見失うなんて。勝手にどっか行くアズもずっと見てなかった俺もバカだ。 最初は歩きながら丁寧に探していたけど、新年が近づくにつれて、足は早くなっていった。 見つからない。 りんごあめにも、かき氷にも、どこにもいない。 |