A requiem to give to you
- 潮のせせらぎと友愛の歌(1/8) -



再び巡り合った光と影は、あの時とは違う思いで対峙する。

何も知らなかった頃には戻れない。それでも、前に進む為には多少の強引さは必要なのだろう。






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N D2012。レムデーカン・△・×の日。

研究所に懐かしい人が来ました。その人は嘗て滅びた故郷で死んだと思っていた人でした。

最後に見た時はまだお互い小さな子どもでしたから、再会して直ぐにはわかりませんでしたが、所長によって顔合わせをした際にこちらが名乗った時、相手が私達の名前を覚えてくれていた事で無事再会を果たす事が出来ました。

その人、今は昔の名前を捨て、ダアトにある神託の盾騎士団に所属しているそうです。今の名は……ヴァン・グランツと名乗っていました。

ヴァン様は私達に恐ろしい事実を教えてくれました。

故郷が滅びたのは、全て預言によって詠まれていた事だと……。

───

N D2012。イフリートデーカン・○・△の日。

ヴァン様からの誘いを受けてから、………ともたくさん話をしました。

………は預言の事がとても気になっているようでした。今は関係者ではないから、詳しいことは話してはもらえませんでしたが、私達が教団の関係者となれば、必ず話すとヴァン様は約束してくれました。

だからこそ、ここを離れるのなら今ではないかと………は言います。

私は、………が行くならついて行こうと思っています。正直、ここでの目的は殆ど終わっています。強いて言うのなら、前に見た『異次元エネルギー』についてが気になりますが、これもあの部屋で見た資料以上の事はわからなかったので、今度関連していると思われる場所へ自ら足を運んでみようと思います。

ローレライ教団。始祖ユリアが契約したとされるローレライと縁深い場所。

私や………、そしてヴァン様に流れる血にもユリアの遺した力があると言われていますが、まさかこうしてそれにまつわる場所へと赴くことになるとは……なんだか不思議な縁ですね。

実はこれすらも、預言に詠まれている事なのでしょうか。もしそうでしたら、













それはとても憎らしいですね。






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「………………」



ケテルブルクを経ち、グランコクマを向かう海上を走行する間、各自自由に過ごしいる中でレジウィーダは貨物室のような場所で日記の続きを読んでいた。この場所は人気もなく、恐らく滅多なことでは誰も立ち入らない為、余計な詮索もなく調べ物をするには持ってこいな場所だった。

まだまだ先が長く、全てを読み終わる気配がないそれは地道に進めていくしかないのだが、その中でも気になっていることがいくつかあった。

この日記の持ち主。内容からしても、それは恐らくシルフィナーレの物だと思われる。勝手に持ってきた事でますます彼女に憎まれそうだが、そもそも何故シルフィナーレにああまでして殺意を向けられるのかはわからない。それを知る為にもこうして日記を拝借して調べさせてもらっているのだが……現時点までではやはり何もピンとこない。



(ああ、でも……)



朧げだが、アクゼリュスで彼女が言っていた言葉を思い出した。

───時空の魔術師、彼女は確かに自分とフィリアムをそう称していた。



(でも、この呼び方ってそもそも初めに言われたのってこの世界じゃない筈なんだけど……)



詳しくは省くが、最初にこの呼び方をしたのは初めてレジウィーダが行った世界の住人だ。魔術師、だなんて大それた程のことではないが、鍵を使い、時空を行き来したことからそう呼ばれたのだと言うことを思い出す。

また、今は壊れてしまったあの石をくれたのもまた、その人物であった。



(あの子、夢を叶えられたかな?)



生まれ持った種族故、世に生きる人々から差別されてきた彼の者は、全ての生き物が共存できる世界を作る為に旅をしていた。

まだまだ育ち盛りで遊び盛りなのに、いくら虐げられようとも、誰よりも一生懸命で優しい少年だった。



「………って、まーた思考が脱線してるよ」



いっけねーと自らの両頬を叩くと思考を元に戻す……が、一度途切れたそれはなかなかうまくは戻ってはくれなくて。

潔く諦めるとパタンと日記を閉じた。



「……何にしても、あのシルフィナーレって人の目的がはっきりしない事には何とも言えないよなぁ」



それも恐らくはこの日記に書いてあるとは思うのだが、下手に読み飛ばせない分まだまだかかりそうである。

はぁ、と小さく息を吐いて立ち上がろうとした時、ふと何かが目に入った。



「ん? こんな物あったっけ?」



手に取ってみたそれは大量の紙で、何やら人の名前が連なっている。どうやら何かの名簿だと思われるが……



「ホド住民のレプリカ情報? シグムント・バザン・ガルディオス、ユージェニー・セシル、マリィベル・ラダン・ガルディオス………………──────ミリアリア・ソール・レンテル。………………セシルに、レンテル?」



何となく読み上げてみた先に、聞き覚えのあるファミリーネームが出てきた事に気がついた。



(これって、もしかしてもしかすると………ヤバイ物見つけちゃったのでは??)



特に前者について、思い浮かんだのはいつでも爽やかな笑みが光るファブレ邸の使用人だった。いつぞやの時も違和感を覚えたが、当時は彼に詳しく言及はしなかったが、もしかすると……そう言う事なのかも知れない。



「と、取り敢えずこれは見なかった事にしよーっと」



何故こんな所にあるのかとか、誰が持ってきたのか……などは一先ず置いておく事にしたレジウィーダはそう呟くと、持っていた名簿をそっと元の位置に戻したのだった。
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