A requiem to give to you
- 不透明は鮮明に(1/6) -



アリエッタ達と別れ、再び雪山の奥へと進んだレジウィーダ達はセフィロトへと到着した。入口は彼女達と別れた場所から然程離れておらず、また封咒や中の仕掛けも既に解除済みであった為、パッセージリングへは苦戦する事もなく来ることが出来ていた。

いつも通りティアが操作盤の前に立ってユリア式封咒を解き、ルークとジェイドによって操作盤で書き換えを行っていく。火山と並んで過酷な環境下にある場所の為、外よりマシとは言え慣れない者達には辛い事には変わりはない。障気が体内に流れ込み顔色の悪いティアや元より体の弱いイオンを皆は心配しつつも、操作が終わるのを静かに見守っていた。

もう少しで終わる、そんなジェイドとルークの会話に胸を撫で下ろそうとした時だった。



「…………っ!?」



突如、辺りが激しく揺れた。それは直ぐに収まり、皆は驚きながらもそれぞれ体勢を整えていると、一早く立ち上がっていたジェイドの舌打つ音が聞こえてきた。



「やられた……!」

「どうしたんだ? もしかしてヴァンが何かやった?」



レジウィーダが駆け寄って問いかけると、ジェイドは顔を顰めながら頷いた。



「アブソーブゲートのセフィロトから記憶粒子が逆流しています。連結しているセフィロトの力を利用して、地核を活性化させているんです」

「アブソーブゲートって、確かヴァンが向かった場所だよな」

「ああ、………でもそんな事をして、師匠は何をしようとしているんだ?」



ヒースの言葉にルークも頷きつつも首を傾げていると、ティアがハッとした。



「ちょっと待って。記憶粒子を逆転させたって………そんな事をしたら、兄さんのいるセフィロトツリーも逆転する事になるから、ゲートのある諸島ごと崩落するわ!」

「いえ」



と、彼女の言葉はジェイドによって否定された。



「今は私達によって各地のセフィロトの力がアブソーブゲートに流入しています。その余剰を使ってセフィロトを逆流させているのでしょう」

「つまり、だ。寧ろ落ちるならあの野郎のいる以外の場所って事かよ」

「えっぐ………逆によくそこに気がついたよねー」

「何だか軍人やっているのが勿体無い頭をしてるわよねぇ。どこぞの大佐さんと一緒で♪」



ジェイドの言葉を引き継いだグレイにレジウィーダとタリスも思い思いにそう言うと、ルークが「そんな事言ってる場合じゃぬぇっ」と突っ込んだ。



「大体、地核を活性化してるって言ってたろ。つまりそれって、振動を止める役割をしてるタルタロスがヤバいんじゃないのか!?」

「近い将来、間違いなく壊れるでしょうね」



そんな事になれば、外殻大地の降下をしたところであの紫色の海に全てが沈んでしまう事だろう。それだけは、絶対に阻止しなければこの世界の存続にも関わる。

ジェイドの言葉にルークは「急いで戻ろう」と皆に声をかけた。それに頷きつつもアニスがそんな皆に言う。



「総長を止めるのもだけど、イオン様を街で休ませるのも忘れないで!」

「ああ、わかってる!」



そしてガイがイオンを背負い、ティアは自力で行けると言ってナタリアが側につきながらもレジウィーダ達は足早にケテルブルクへと戻った。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







セフィロトを出てから、何事もなくケテルブルクへと戻った皆を待っていたノエルから、アルビオールの浮力機関が凍りついてしまったと報告を受けた。ネフリーに協力をお願いし急いで修理を依頼したものの、直るのには早くとも一晩はかかるとの事だった。



「まぁ、こればかりは仕方がないな」

「元々極寒の地を飛ぶようには出来てねーしな」



肩を竦めるヒースとグレイに他の者達も頷く。ここは前向きに準備と休憩をする時間が出来たと思う事にして、一同は知事邸にイオンを預け、それからネフリーの取ってくれたホテルへと入った。



「ふぇえ、やっと休めるよぅ〜」

「短い時間でたくさん移動しましたものね。考えてみれば、雪崩にだって巻き込まれていましたのよ?」

「本当だよ。俺たち、よく生きてられたよな」



アニス、ナタリアの疲れたような声にルークも染み染みと今になって湧いてきた生きた心地にホッと胸を撫で下ろしていた。他の者達も同じようにする中、ふとレジウィーダが思い詰めたような顔をしたティアの様子に気が付いた。



「ティアちゃん、大丈夫?」



その言葉にルーク達も彼女を見る。まだ体調が優れないのかと心配する彼らにティアは苦笑して首を振った。



「体の方は大丈夫よ。………ただ、教官達の事を考えていたの」



リグレットとラルゴの行方はアリエッタ達が探しているとは言え、あの雪崩だ。自分達は運良く助かったが、いくら六神将と言えど無事でいるとは限らない。ティアの言葉にフィリアムの表情も曇るが、彼はその事には何も言わずに黙り込んでいた。



「死にやしねェよ」



そう言ったのはグレイだった。



「確かにあいつらにとってもアリエッタの行動は予想外だったかも知れねーけど、そもそもあんな場所でドンパチやる気でいたンだから、雪崩に巻き込まれる可能性だって頭にあっただろうしな」

「けど、シンクの時もそうだったが、あいつらは目的達成の為なら心中も厭わないところがある。もしかしたら本当に命掛けで戦いに来ていたのかも知れないぜ?」



ガイはそう言うが、グレイは首を横に振った。



「命掛けなのはいつだってそうだよ。でも、一芝居売ってくれやがったアリエッタが、マジで何も考えずにあんなめちゃくちゃな事をするとも考えにくい」

「確かに、」



と、今度はレジウィーダが口を開いた。
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