A requiem to give to you
- 不透明は鮮明に(2/6) -



「誰かに命令されたとか、前の時みたいに物凄く恨んでいるのならともかく、アリエッタ自身が独断でいきなり人を殺すような真似はしないと思う。もしかしたら、元々六神将達の中で対策は立てられていたと考えた方が良いかもね。それだったら、いくら雪崩を起こそうが問題はないと思うし」

「当人達以外には大変傍迷惑な話だけどな」



それもそうだ、とレジウィーダは苦笑する。しかし、そうなると問題も出てくる。そう考えたルークが口を開く。



「となると、生き残った二人がアブソーブゲートにいるヴァン師匠と合流する可能性もあるって事だな」

「可能性は無きにしも非ず。………だけどリグレット達が無傷か、或いはそれに近しい状態で助かっているのならってところだけどね」

「アリエッタの不意打ちがどこまで効いてるかにかかってるな」



ガイの言葉に皆は戦慄する。なんとも恐ろしい賭けだろうか、と。けれど例えそうだったとしても、その時はその時だ。



「確かに大変だけど、でも戦うのなら一人でも三人でも変わらねぇよ。俺達はヴァン師匠達を倒して、外殻降下を成功させるんだ」

「そうね」



ティアも先程までの暗い気持ちを振り払い、いつもの毅然とした表情に戻ると頷いた。



「例え兄さんと戦う事になって、どんな結末になったとしても………今の私達はやれる事をやるしかないわ」

「ティア………」



ルークが何か言いたげに彼女を見ると、それに気付かなかったのかティアは表情を和らげると皆を向いた。



「それよりも、今は少しでも休んで明日に備えないと。流石に私も少し疲れてしまったから、先に休んでいるわね」



そう言ってティアは皆から離れ、一人部屋へと戻って行ってしまった。皆は顔を見合わせ、それからジェイドが解散を促した事で、一同はそれぞれの自由時間を過ごす事となった。

ある者は部屋へ、またある者は他の仲間を連れて街へと散る中、レジウィーダは静まり返ったロビーで一人ソファに腰掛けると鞄から何かを取り出した。それはイヤホンと、音楽プレイヤーだった。

両耳にイヤホンをはめ、プレイヤーの電源を入れる。この世界に戻ってくる前にしっかりと充電をしたそれを指で操作し、音楽を再生する。



♪ ────── ───



イヤホンから流れてくる音楽を静かに聴きながら窓の外を見る。空の方を見れば重たい雲が覆っており、今夜にでも雪が降りそうだ。

そんな時だった。



「何してんだお前」



と、そんな事を言いながら目の前にグレイが現れた。彼は先程部屋に戻った組の一人だったが、どこかに行くのだろうか。目を丸くしながらイヤホンの片耳を外して「アンタこそどっか行くのか」と問うと、グレイは微妙な顔をした。



「いや、寒いから出たくはないな」

「相変わらず勿体無いこと言ってるなー」

「苦手なんだから仕方ねーだろ」

「じゃあ、なんでまたこっちに来たんだよ?」



再度問えば彼はやはり微妙な顔で答えたのだった。



「部屋で休む気になれなかったから、散歩に行こうとしたンだよ」

「出たくないのに?」

「でも暇を潰す物もねェンだから仕方ない」



散歩、と言う割にはやはり寒いのは嫌だと言うのがありありと書かれたような顔にレジウィーダはふーん、と声を漏らし、それからもう片方のイヤホンを外すと「それじゃあさ」と言った。



「暇潰しにこれ、聴いてみてよ」

「音楽? お前の趣味とか何聴かされるかわからなくて怖ェ……」



あからさまに嫌そうな表情を隠さない彼にムッとする。



「あっそ、じゃあ良いよーだ。勝手にどっか行けし」

「ガキかよ………つーか冗談だよ。本気にするなっての」



そう言ってレジウィーダからイヤホンを取ると、グレイは向かいのソファに腰掛けて自身の耳にそれをはめた。そして曲を聴き始め、それから直ぐに目を見開いた。



「これって………」



彼が驚くのも無理はない。よくある有名な曲でもなければ、テレビアニメで聴くような物でもない。寧ろこの曲を知っている者は限りなく少ないだろうが、けれど彼はこの曲を知らない筈がなかった。

グレイはその後も暫くそのまま静かに音楽に耳を傾けており、レジウィーダはそれに口を挟む事なく見守る。やがて曲が終わるとグレイはイヤホンを外してそれをこちらに返してきた。



「暇潰しにはなったでしょ?」

「ああ………てか、この曲って」



彼が言いたい事は十分にわかっている。レジウィーダはその言葉に頷くと口を開いた。



「そ、お兄ちゃんが作った曲。アンタが前に弾こうと頑張ってたあの曲だよ」



思い出した今だからこそわかる、兄が目の前の彼の為に作ったその曲は、グレイにとってもとても大切な物だったのだろう。そう思ったからこそ、持ってきたのだ。



「お兄ちゃんの部屋でデータを見つけたから、そのまま入れてきたんだよ。勿論、あたしの自鳴琴の曲も入ってるよ」



自鳴琴の一小節が繰り返されるのとは違って、幾つものフレーズが合わさり、一曲の中で次々と綴られていく世界が広がっている。彼が元の曲を聴いた事があるかはわからなかったが、少なくともこうして聴かせる事が出来たのは正解だったのだろう。

グレイは何かを考えるように俯いていたが、直ぐにこちらを真っ直ぐに見つめてきた。



「これ、帰ったらオレにもくれねェか?」



予想通りの言葉。レジウィーダはその言葉に口角を上げると頷いた。



「勿論。…………その代わり、なんだけどさ」



一つ、お願いがあるんだよね。
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