A requiem to give to you
- 光と闇の凶戦士(1/5) -



山の天気は変わりやすい。そうでなくとも、一年中白銀に覆われたこの地は雪が降らない日の方が珍しい。

レジウィーダは今、一人街の外へと出ていた。ディストの見舞い帰りに会ったネフリーより、最近ロニール雪山付近で人の出入りがあったと言う報告があった。登山客にしても冒険者にしても知事が全く把握出来ていないのは、万が一何かあったら対応もそれだけ遅れてしまうとの事で、様子を見てきて欲しいと頼まれたのだ。

ルーク達であった場合、流石にケテルブルクに一切寄らずに行くと言うのは考えにくく、強力な魔物も住まう雪山に挑もうとする者達を放ってもおけなかったので、レジウィーダは二つ返事でその頼みを引き受けたのだった。



(うーん、タリス達に言ってくれば良かったかな?)



様子を見るだけならさして時間もかからないだろうと思っていたものの、流石に一人で来るのは悪手だったかも知れない。しかし今更街に戻ったところで、もう一度行くには更に遅くなってしまう。どうしたものかと考えて、それからふとある事を思い出したのだった。



「あ、そうだ! 携帯があったじゃん」



地球に戻った際に新調した携帯電話。同じく新しい機種を買っていたタリスとは既に連絡先を交換済みだった。他の連絡先については、元の携帯がなかったので登録が出来なかったが、彼女にだけは今連絡が取れる。そう思って携帯を取り出し、早速とばかりに電源を入れた───その時だった。



「………ん?」



前方に人影が見えた。距離がある為、顔や性別は判別出来なかったが、白と黒を基調とした衣装を身に纏った背の高い人物である事が伺える。

相手もこちらに気付いたのだろう。その人物はこちらを振り向いた。どうやら被り物をしているらしく、やはりその顔はわからなかったが………レジウィーダは途端に嫌な予感がしたのだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







ワイヨン鏡窟でティア、ヒースと合流したルーク達はアルビオールに乗り込み、ケテルブルクへと向かっていた。

ティアからは何度も迷惑をかけたと謝られたが、敵とは言え彼女と同じ症状が出ているヴァンを案じ、説得をしたかったと言う彼女の気持ちはルーク達も十分に理解していたので、彼女を責めることはしなかった。

しかし、結局はヴァンの説得は叶わず、負傷したアッシュもどこかへと去っていってしまった為、ルーク達は一先ず本来の目的を優先する為に旅を再開する事となったのだった。



「ロニール雪山のセフィロトが終われば、あとはラジエイトゲートとアブソーブゲートのセフィロトのみとなるのか」



ガイの言葉にジェイドが頷く。



「ええ、ですがアブソーブゲートにはヴァンが待ち構えている筈です。残りの六神将もそこにいるのかまではわかりませんが、最悪の場合、彼らとはロニール雪山で戦う事になるかも知れません」

「残りの六神将と言うと……」

「《魔弾》リグレット、《黒獅子》ラルゴ、それから《死神》ディストですね」



アニスの言葉に続けてイオンが彼らの名を上げる。少なくとも、この三人との戦いは避けられないだろう。



「アリエッタはどうだろうか?」



彼女は名目上は未だに向こう側だ。彼女自身、こちらに協力的ではあるが、上からの命令にどこまで従うのだろうか。ガイのそんな疑問にアニスが表情を暗くする。



「もし、アリエッタと戦う事になったら………あたしはあの子を、倒せるかわかんないや」

「そうですわね。彼女には助けられた事もありましたもの。それを思うと………ね」

「別に」



重くなり始める空気にグレイが声を上げる。



「そこは、あいつ次第だと思うぜ。あいつがオレ達と敵対したくないと言えばこちらに引き込めば良いし、もしもこっちに殺意を向けてくるンなら、返り討ちにすれば良い」

「けど、それじゃあ……!」



ルークが悲痛に訴えかけるのを、グレイは「取り敢えず聞け」と冷静に返す。



「アリエッタ自身、まだオレ達と敵対する可能性が十分に残されてる」

「本物の“導師イオン“の事、ですね」



イオンがそう言うと、彼は頷く。



「お前らはともかく、導師は当たり前としてオレやレジウィーダ、それにフィリアムは最初からこの事は知っていた。わかっていて、今まで本当の事は言えなかった」

「それ、思ってたんだけど………どうしてなの?」

「オリジナルイオンがそう望んだから」



アニスの疑問に隠す事なくそう告げる。

そう、これは全てのレプリカイオン達の大元であるあの少年が自ら命じた事だ。唯一と慕う己がいないと知って後追いしないように。そして、























己の大切な存在が、自分以外の守護役にならないように。



「アリエッタがあいつを慕っていたように、イオンにとってもアリエッタは相当大切だったって事だよ。オレは………いや、オレだけじゃない。レジウィーダやヴァン達はその意志を尊重しただけの話だ」

『…………………』



仲間達は何とも言えずに黙り込む。しかしグレイは更に続けた。
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