A requiem to give to you- 再生を求めて(1/8) -
とてつもない力。全身を引き千切られそうなくらい、多方向から引っ張られるような、あるいはかき混ぜられているような、そんな感じだ。目も開けられない中、かろうじて繋いだ手の感覚ははっきりとしていて、いつかのようには絶対に離さないとお互いにしっかりと握り締めている。
(ぐっ……あと、……どのくらいこうしていれば……良いんだ!?)
この体験は何度やっても慣れない。何の準備も覚悟もしていない者が飛び込めば、簡単に意識なんて失ってしまうだろう。
本当に目的の場所に辿り着けるのか。例え行けたとしても、どのくらいの時差が生じるのか。目印となる座標はあるものの、きちんと試した事なんて当然ないのだから、間違いなく行ける保証なんてない。
……それでも、一人では難しくとも、共に協力してくれた弟と、この力を信じたい。
(早く………早く……!!)
───我の示す標、その手に掴め!
(………来た!)
突如鮮明に聞こえて来た声。記憶に残る限りでは、アクゼリュスから落ちた時以来のそれにレジウィーダは思い切り目を開く。
「今、行くよ───」
小さくそう呟くと同時に、視界は眩い光に包まれた。そして……───
「───て、な訳でとうちゃーく♪」
どことなく見覚えのある雰囲気。魔物一つ寄せ付けない、神秘的な場所。古代人の作った巨大な音機関と、光の柱。レジウィーダ達は何とか五体満足かつ意識を保ったままこの場所へ降り立つ事が出来た。
「ここは……セフィロト?」
辺りを見渡したタリスがそう呟くと、同じように周りを見ていたフィリアムが頷いた。
「そうみたい。音素も確かに感じるし、間違いないよ」
「けどさ」
と、シンクが腕を組みながら口を開いた。
「どこのセフィロトなのさ?」
『…………さあ?』
正直、わからない。
「うーん……セフィロトってどこも似たり寄ったりだからなぁ」
「でも、多分だけどここにはまだ来た事がないと思うわ」
首を傾げるレジウィーダにタリスがそう言う。それに「そうなのか?」と問うと頷いて返された。
「似ているけれど、少しずつ配置だとかも違う気がするの。私の記憶が確かなら、ここは見覚えがないわ」
「そうなんだね」
「そんな不確かな勘を簡単に信じて良い訳?」
シンクが呆れたようにそう言うが、タリスはニヤリと笑った。
「あら、これでも記憶力には自信があるのよ? 強制的に忘れさせられない限りはしっかりと覚えているわ」
「それ、割とピンポイントで指してるよな」
フィリアムのそんなツッコミを流しつつ、タリスはオホホと声を上げて笑った後、改めて別の場所へと続く道を見た。
「まぁ、戯れはこのくらいにして。ここがどこのセフィロトかを確かめる為にも、早い所出ましょう」
それに三人は頷き合うと、恐らく外へと向かっているだろう道へと進み始めた。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
「おーい! ガイ、ナタリア!」
そんな元気な声が聞こえ、ヒース達が振り向くとルークが手を振りながらこちらへと走ってくる姿が見えた。その後ろにはティアやジェイド達の姿も見える。
「お、ようやく来たか!」
「待っていましたわ」
ガイとナタリアが嬉しそうに彼らを出迎え、ヒースも苦笑しながら手を上げた。
「無事に終わったようだな」
「! ヒース、言葉が通じるようになったんだな!」
「よくわからないけど、なんか突然戻ったみたい」
驚くルーク達にそう言うと、彼らは首を傾げつつも取り敢えず元に戻った事を素直に喜んでいた。
それからアニスがあれ、と声を上げた。
「ところで、シェリダンの人達やグレイは?」
「安心して。シェリダンの人達は全員無事だ。グレイは……まぁ、一応生きてはいたよ」
「ど、どう言う事だ!? まさか取り返しのつかない怪我をしたとか……!」
ハッとするルーク達にヒースは少しだけ遠い目をしながら乾いた笑いをした。
「いや、まぁ……危うくそうなりかけたけど……うん」
「な、何だよ……不安になるじゃねぇか!」
「大丈夫さ、ルーク。確かに大怪我こそしたけど、取り敢えず文句を言えるくらいには元気さ」
不安げなルークを安心せるようにガイがフォローを入れる。それにナタリアも苦笑しながら頷いた。
「ええ。今は少し動くのも大変そうですが、後でベルケンドの医師に見せてきちんと治療すれば大丈夫だと思いますわ」
「そ、そうか。なら、良かった……のか?」
「まぁ、取り敢えずはね。………ところで、」
と、ヒースが後ろにいるジェイドの更に後方を見やる。そこには、どこか見覚えのある老人の姿があった。
「スピノザ!?」
ガイが驚きに声を上げる。背の高いジェイドの影に隠れるようにして縮こまっていた老人ことスピノザは名前を呼ばれ恐る恐る前に出てきた。それにナタリアがキッと目を吊り上げて睨みつけた。
「何故お前がここに! まさかここの事までヴァンに……」
「ち、違う! わ、わしは……」
震えながら否定する彼にジェイドが肩を竦めた。
「メジオラ高原のセフィロトを出た時、一人でウロチョロしてましてね。このまま魔物の餌にしても良かったのですが、色々と聞きたい事もありましたので取り敢えず連れて来ました」
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