A requiem to give to you
- 逆位相の交響曲・後編(1/11) -



※今回は全体的に少し過激な表現が多くなっております。苦手な方は閲覧の際、ご注意下さい。







生きる辛さと、死ぬ苦しみ。より楽なのはどちらか。どちらも地獄だと言うのなら、ボクは後者を選ぶ。

だって、存在する事自体を望まれていないのだから。それなのに無理に生きようとした所で、ただただ辛いだけだろう?



『生まれたこの子達はどうするんだよ! 生きたいと思っていたかも知れないのに、それを無視して虫けらのように殺しやがって! この子達にだって生きる権利がある筈だろ!』



火山の中で少女が叫んでいた。『生きる権利』、とは命ある者全てが平等に与えられる筈の物。しかし紛い物であるレプリカには、その権利なんて果たしてあるのだろうか。

一度は立ち上がった。伸ばされた手を取った。「いきたい?」、と問われた言葉に頷いた………ボクは、「生きたい」と。

けれどこの体の元となった奴には「いらない」と言われた。同じ物は、況してや”奴”の代わりにすらなれなかった存在はいらない、と。

ならば、お望み通り消えようじゃないか。邪魔な奴らと一緒に、無責任で残酷なあの少女と共にさ───






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







シェリダン港を離れたタルタロスは、イエモン達が予め目的地を登録しており、現在は自動操縦で海上を進んでいた。

目的地のアクゼリュスまではまだまだ遠い。今のヒース達の心境とは正反対な雲一つない青空の下、ルーク達は甲板に集まっていた。



「おじいちゃん達、大丈夫かな……」



誰もが口を開くのを戸惑う中、アニスがそう呟いた。それにティアは「わからない」と首を振った。



「イエモンさん達を除いたシェリダンの人達は、昨日の内に避難してもらっていたから問題はないと思うけど……」

「街に残ったイエモンさん、タマラさんは手筈通りなら、アリエッタの魔物が救出している筈だ。アストンさん達の方も、グレイが残って足止めが出来ているなら大丈夫だと思うが………あのヴァンがそれを易々と逃すかどうかって所だよな」



ティアに続いて言ったガイの言葉にアニスは俯く。



「グレイは……どこまでわかっていたんだろう」

「それは、どう言うことだ?」



意味が理解出来ず、ヒースが問う。



「あたしが、モース様のスパイだったって話をしたよね」

「ああ、あの衝撃のカミングアウトね」



作戦決行が決まった僅か数時間後に、突然アニスが全員を集めた。何事かと思い集合場所の宿屋へ入ると、既にアニスとイオン、それからグレイが待っていた。そして、どことなく言い淀むアニスが暫くして口を開いて皆に伝えた言葉と言うのが、



『皆にずっと隠していた事があるんだけど、実はあたし………モース様のスパイだったんだ』



と言う事実だった。それから彼女は今までのイオンの行動を含めたこちらの動向を、モースへと伝えていた事を告白した。その中には、ヒースは話に聞いていただけだったが、タリスやルーク達が巻き込まれ、そしてグレイも関わっていたと言うタルタロス襲撃の件も入っていたのだ。

アニスはまずジェイドに、それからルーク達に向かって頭を下げた。巻き込んでしまった事、そして……たくさんの他国の兵士を死なせてしまった事を。

確かに、彼女のたった手紙一つによって、とんでもない被害が出てしまったのは事実だ。ルーク達が言葉を失う中、ジェイドは彼女を責め立てたり、怒鳴ったりする訳ではなく、「どうしてそんな事をしていたのですか」と問うた。それにはアニスではなく、グレイが資料を一枚渡しながら説明してくれた。

どうやらモースは、アニスの両親が何年か前に作った借金の肩代わりをしたらしかった。また、その借金と言うのも相当な額らしく、少なくとも軍人でもない一般市民が直ぐに返せるような物でもなく、下手をすれば家族皆バラバラになる寸前まで来ていたらしい。

そんなタトリン家に手を差し伸べたモースは、借金の肩代わりをする代わりにタトリン夫妻には住み込みで働き、返済を約束させた。そして二人の娘であるアニスは、幼くも秀でていたその才を買われ、導師守護役としてイオンの側に付き、彼の行動の監視を命ぜられていたのだった。

辛くなかったのか、とルークは彼女に問いかけた。するとアニスは今まで我慢してきたモノが溢れ出すかのように唇を震わせ、涙を流した。



『とても辛かった』



と。己の行動のせいで人がたくさん死んでしまうのも、両親が今でもまだ人助けと言って騙されて詐欺に遭うのも、そして何より…………己の守るべき人を騙し続ける事が、何よりも辛かったのだと。途切れ途切れに言葉を紡ぎながら泣く彼女に、レジウィーダが寄り添った。後から聞いた話だが、どうやら彼女もある程度事情は知っていたらしい。

そして何故、今このタイミングでアニスはこの事を話したのか。本当ならば、ずっと黙っているつもりだったと言うアニスはグレイを見た。その視線を受けて、グレイははっきりとこう言ったのだ。



『金と権力で支配されて動けねェって言うなら、そいつよりも更に強い奴がなんとかすれば良い』



その言葉に今まで成り行きを見守っていたイオンも頷いたのだ。彼もまた、ここまでついてきてくれていた己の守護役を守りたかったと言った。だからこそ、グレイの提案に乗ったのだと。それを聞いてアニスはまた泣き出し、レジウィーダが優しく抱きしめていた。
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