A requiem to give to you
- A score that spells hope・後編(1/10) -



アッシュと共に第一音素研究所を出たルーク達は、彼に促されるままに宿屋へと戻ってきた。

そこでルーク達を待っていたのは意外な人物達だった。



「………おかえり」

「皆さん! ご無事でしたか!?」

「お久しぶりです!」

「フィリアム!? それにノエルにギンジまで!?」



そう、アッシュに案内された部屋にいたのはフィリアム、ノエル、そして以前アルビオールをもらいに行った時にメジオラ高原で助けた青年………ノエルの兄であるギンジだった。

ノエルはルーク達の姿を見ると安堵の表情で駆け寄ってきた。



「お怪我はありませんでしたか?」

「それは大丈夫だよ。それよりもどうしてノエルがここに?」

「アッシュさん達に助けてもらったんです」



そう言ってノエルは自身がここに来るまでの経緯を簡単に説明した。話を聞いたルーク達は彼女も、そして飛行機能は失われているもののアルビオール本体も無事だと分かりホッと息を吐いた。



「そうだったのねぇ。本当に無事で良かったわ」

「ありがとうございます、タリスさん。それに皆さんも……ご迷惑をお掛けしてすみませんでした」



申し訳なさそうに謝る彼女に皆は首を横に振った。

それからヒースがフィリアムを向いて首を傾げた。



「それで……何で君までここに?」

「そ、それは…………」



流石につい最近まで敵対していたからか、フィリアムが気まずそうに視線を逸らすと、アニスも「そう言えばさ」と口を開いた。



「フィリアムって、今長期休暇中だったよね?」

「な、何で知ってるんだよ?」

「おや、やはり気が付いていなかったんですね」



と、ジェイドが意地悪な笑みを浮かべた。



「モースはともかく、ディストも貴方も戦闘員なら、もう少し周りの気配に気を付けませんと……ねぇ?」

「ま、まさか……」



どうやら思い当たる所があったらしく、フィリアムはサッと顔色を変えて後ずさった。

そこで成り行きを見守っていたグレイが割って入った。



「オイ、あまり苛めンなよ。こいつは大元(レジウィーダ)と違って繊細なんだから」

「あたしだからって何言っても言い訳じゃないんだからなこのバカ男」



グレイの言葉に即座に蹴りと共に突っ込むレジウィーダ。しかしそれも想定の範囲だったらしくグレイはあっさりと避けていく。

そんな茶番もそこそこに、フィリアムは二人の背から覗き込むようにこちらを見ると小さな声で言った。



「兄貴達と来たのは、偶然。元々アンタ達を助けにいく予定なんてなかったし………。でもどうせやる事がちゃんと決まってないならって、言うから………」

「そうだったのねぇ。でもフィリアム」



タリスはそんなフィリアムに怖がらせないようにと優しく微笑んだ。



「それでもアッシュ達に協力してくれたんでしょう? 助けてくれてありがとう」

「………何で、そんな態度でいられるんだよ」

「え?」



複雑な表情で返すフィリアムにタリスに首を傾げる。



「今まで散々武器だって向けてきたし、酷い事も言ったのに。姉さんも、アンタも…………どうして俺と普通に接しようなんて思えるんだ?」

「確かに所属する軍の上司命令とは言え、貴方がやって来た事には取り返しのつかない事もあったわ。ここにいる人達も、貴方の事を信頼しているかと言えば……そんな事は全くないと思う」



そう言ってタリスが仲間達を見れば、口を挟んだりはしないもののかなり複雑そうな表情でこちらの様子を伺っている。

それを見てヒースも肩を竦めた。



「君が今までの事をどう捉えているかはわからないけど、少なくとも今は僕達と敵対する気はないんだろう?」

「それは………まぁ」

「なら、今はそれで良いよ」



こっちだって君と戦いたいわけじゃないから。

そう言ってからヒースはジェイドを見る。彼の言わんとしている事がわかったのか、ジェイドは仕方がないと大きな溜め息を吐いた。



「残念ながら、私個人では他所属の者を勝手に裁く事は出来ません」

「しれっと残念とか言ってンじゃねーよ」



冗談なのか本気なのかわからない言葉にグレイが突っ込むも、それは華麗にスルーされた。



「何にしても、今は戦争が終わらなければその辺はどうにも処理は出来ませんし。こちらに敵意がないのであれば良いんじゃないですか? その代わり、少しでも敵対するような事があれば…………その時は容赦はしません」

「………わかってる」



鋭く、射抜くような視線を浴び、けれどそれに臆する事はなくフィリアムは頷いて返した。

そこで話は一区切りがつき、次いでアッシュが口を開いた。



「それで、だ。お前達を連れてきた訳だが……」



そう言ってアッシュは布袋を手に取ると、中から一冊の分厚く古びた本を取り出してジェイドへと渡した。



「イオンからこれを渡すように頼まれた」

「これは………」



受け取ったジェイドは訝しげに本を開き、パラパラとページを捲りながら軽く流し読むと途端に眼鏡の奥の目を輝かせた。



「創世暦時代の歴史書……! ローレライ教団の禁書です」

「禁書って、教団が有害指定して回収しちゃった本ですよね?」



アニスが思い出すように言うと、ジェイドは頷いた。



「ええ、それもかなり古い物ですね」

「あーそれか」



レジウィーダがポンと手を叩きながら本を見た。



「イオン君に頼まれて図書館中を色々とひっくり返しながら探している時に見つけたやつだ」

「因みに中身は見ましたか?」

「見たところで理解出来ると思う?」

「無理でしょうね」



キッパリとそう言い切ったジェイドにレジウィーダは不貞腐れたように頬を膨らませた。



「じゃあ聞くなし!」
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