A requiem to give to you
- 捩れた絆と見守る者(1/5) -



ザオ遺跡の最深部。以前来た時よりも更に奥へと続く場所にあるセフィロトにて、ルークはジェイドの指示の元パッセージリングの操作を行なっていた。

シュレーの丘で初めて操作した時よりは幾分か安定した操作だが、以前よりも長い書き換えに仲間達の緊張は緩まない。



「『ツリー上昇、速度三倍、……固定』、と」



最後の文字を書き、線を繋ぎ終えたルークは大きく息を吐いた。それと同時に辺り全体に小さな浮遊感があり、間も無く大地が降下を始めた。

超振動で無理矢理暗号を書き換える作業と言う事自体が大それた事だが、そこに繊細な寸分の狂いも許さない操作が必要なのだ。彼の心労は言葉で表現するよりもずっとずっと大変なのだろう。



(せめて、僕も何かその辺が手伝えれば良いんだけどな)



一応ローレライと同じ数字を持っているらしい事を加味して、超振動は出来なくとも、少しでもルークやティアの負担を減らす事は出来ないだろうかと前回から考えていたが、なかなかに良い方法は浮かんでこない。

ヒースは無事に降下が始まった事に安堵しルークに声をかける仲間達を見た。……とは言っても、まだ降下が完了していない以上油断は禁物だ。それは皆も重々に理解しているからこそ、その場を離れようと言う者はいなかった。



「一先ず、降下が完全に終わるまで数時間はかかります。それまでは各自休憩を取りましょう」



そんなジェイドの言葉に一同は頷き、ヒース達はそれぞれ体を休ませる事となった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







タリスはパッセージリングの操作盤に手を置いてみた。

ユリアの血族にのみ反応すると言うこの封咒は、当然ながらタリスが触れただけでは何も起こらない。勿論、第七音譜術士でもないのだから、操作だって出来る訳でもない。

別にそれを悔やむとか、そう言う事はない。人にはそれぞれの適した役割と言うのがあるのだから、これはタリス自身の役目ではないと言うだけの事だ。

───それよりも、とタリスはティアを見た。



(前にも見た、あの光の淀めきは………見間違えじゃなかった)



前回のシュレーの丘の時は一瞬の事で気のせいかと思っていたが、今回ははっきりと見えていた。ティアがパッセージリングの操作盤の前に立ち封咒を解いたその時、まるで彼女の中の命の灯火を消そうとするかのようにその光の輝きを弱めた。



(あれは一体何なのかしら? ヒースも何か気付いているみたいだったけど……)



今までこんな事はなかった。常人には見えざるモノとは言え、彼女が見えていたのはあくまでも嘗ては生きていた、今は亡き彷徨える魂だ。

だからこそ、タリスは嫌な予感がしてならなかった。



(まさかあの光が、ティアの命そのモノって事は……ないわよね?)



あの光が完全に途絶えた時、ティアはどうなるのだろうか。

そこまで考えてから、タリスは嫌な予感を振り払うように首を振った。



「タリス、どうかしたのか?」



不意に声をかけられて振り向くと、グレイとヒースがこちらを心配そうに見つめていた。そんな二人に苦笑して首を振った。



「いえ、ちょっと考え事をね」

「ティアの事?」



やはりヒースも違和感を感じていたのか、こちらの考えをあっさりと当ててきた。グレイの方はそこまでではないようだが、一度ティアの方を見遣ってから腕を組んで首を傾げた。



「確かに、封咒の解除をしてからかなり疲れたような顔をしてるな。前回もそんな感じだったけど、あれだけの規模の術式だし……やっぱ相当体力を使う物なのか?」

「それだけ、だったら良いのだけれどねぇ」

「こんな時じゃなかったら、一度ちゃんと医者に診てもらいたいところだよ」



ヒースの言葉にはタリスも同感だった。今はやる事が詰まっているからなかなか難しいだろうが、事が落ち着いたらしっかりと見てもらって、原因をはっきりとさせてもらいたい。

そうすれば、少しはこの不安も解消されるのかも……?



「ま、ティアの事も心配なんだけどさ」



そう言って唐突に話題を変えたヒースにグレイと揃って彼を見ると、ヒースは先程よりも更に深刻そうな表情で言った。



「僕としては今一番気になってるのは、アッシュの事かな」

「ああ……」

「そう言えば、彼も彼で何かありそうな感じだったわよねぇ」



ザオ遺跡に向かう為にケセドニアを出る直前、唐突にルークにアッシュからの呼び出しがあった。オアシスを指定されそちらに出向くと、相変わらず眉間に皺を寄せた彼は妙な事を言っていた。



「『意識が混ざり合って掻き乱される』だっけか?」

「ルークが時々謎の頭痛と声が聞こえる現象に似たようなモノなのかしら?」

「その声って、結局のところアッシュからのコンタクトだったンじゃねーのか?」

「いや、それだと色々と辻褄が合わない」



そう、ルークの頭痛と謎の声はアッシュと出会うよりもずっと前からあったらしい。それにルーク自身がアッシュの意識と繋がったのは十中八九コーラル城で捕まった時だろう。あの時のルークの拉致がアッシュの指示で、ディストまで絡んでいるのだとしたらそのタイミングでとしか考えられない。
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