A requiem to give to you
- 捩れた絆と見守る者(2/5) -



「実はその声って、ローレライだったり……なんて事はあるのかしらねぇ」

「ないとも言い切れないのが、何ともなぁ」



一体全体どこにいるのかはわからないが、ルークがローレライの同位体だと言うのなら、あり得ない話でもない。



「寧ろアッシュの言ってた意識の混濁ってのも、ローレライの関与が原因なんじゃね?」

「だとしたら、使者であるトゥナロじゃなくて、ルークやアッシュに直接アクションを起こしてくるのも頷けるのかもな」



これが果たして何を意味するのか。そしてアッシュの言っていた現象が本当にローレライによる影響なのか。本人達ですらわかっていないのだから、これ以上自分達だけで考えるのも限界がある。



「取り敢えずは、様子を見ていくしかないのかもねぇ」

「それこそ、落ち着いたらそれもしっかりと検査するなりして調べてもらうべきだな」



今は悪い方向へと事態が進まない事を祈るしかないのだろう。

一先ず話を切り上げる事にしたタリスは尽きない問題に溜め息を吐いた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







大地の降下を始めて一時間程経った頃。初めこそ話をしたり、辺りを探索したりと好きに過ごしていたルーク達だが、次第にやる事もなくなり、気が付けば誰もが口を閉ざし、静寂が辺りを支配していた。

……いや、完全に静まり返っている訳ではない。しかし、仲間内の三分の一ほどはその纏う雰囲気は決して明るい物ではなく、寧ろ暗雲すら立ち込めてきそうである。

一人は本来守るべき者の意思とは言えこの状況下で離れた事への不安、また一人は信頼していた上司の真実を知った事への落胆と憤り。そしてもう一人は……───



「わたくしは………お父様の娘で、キムラスカの王女………その筈、ですわよね?」

「………………」



ケセドニアでモースから言われた言葉。彼女の中では当たり前である筈の事実を否定され、ナタリアはその”当たり前である筈の事実”について揺らぎ悩んでいる。

ナタリアは生まれた時からキムラスカ・ランバルディア王国のただ一人の王女だ。それは王であるインゴベルトは勿論、ナタリア自身、そしてキムラスカの国民の中では誰もが知る事だ。

しかしモースはそれを否定した。彼女は偽の王女だ、と。



(偽物、か)



インゴベルトが一人娘を溺愛している事は、国境を越えた者達の耳に入る程有名な話。事実、前にアクゼリュスへの慰問を申し出た彼女を止めたらしい彼は、あの場所で何が起きるのかを知っていたからこそ、大事な娘を向かわせる訳にはいかないと叱ってでも引き止めた。(結局その努力は無駄となった訳だが……)

そんな父親が、娘を偽物だと言う。───いや、正確にはまだ直接言われた訳ではない。しかしあの時のモースの自信に溢れた態度と、それに戸惑いながらも従ったキムラスカの者達。ナタリアの言葉がまるで通らなかったその事実は、より現実的に彼女にのし掛かってきたのだろう。



「………………」



実際の所、彼女の真実についてグレイは大まかにだが知っていた。ナタリアが本来のキムラスカの血を引いていない事を。

詳しい話を聞いた訳ではないが、彼女に関連する人物と最近まで何度も同じ仕事をしてきたのだ。何かの拍子で”うっかり見てしまった”夢《真実》は、ヴァンの思想について行く彼の様子からしても直ぐに察しはついた。

───それはそれとして、だ。いずれは遅かれ遠かれキムラスカへは行かねばないらない。その時にナタリアは嫌でも真実を目の当たりにする事となるだろう。



(そうなった時、ナタリアはどう思うンだろうな)



絶望は、するだろう。そしてその後は?

事実を受け止めて素直に諦めてしまうか、それとも最後まで足掻き続けて事実を否定するのか。

それとも……













“本当の父親”のようにこの世界を憎み、全てを消してしまいたいと願うのだろうか。



「グレイ」



声をかけられ、思考が強制的に打ち止められる。振り向けば先程とは逆にタリスがこちら側に来ていた。



「顔色があまり良くないわ。この揺れで酔った?」

「いや、……別にそこまでじゃねーよ。ただ……」



そう言ってナタリアの方を見ると、タリスは事情を察したように眉を下げた。



「モースに言われた事を気にしているのね。私も何度か励まそうとしてみたんだけど、やっぱりキムラスカの兵士達がモースの言葉に従った事がショックだったみたいで………事実を確認したくとも、なかなか勇気が持てないみたい」

「まぁ、それは……そうだろうよ。自分の出自自体が疑われてるンだからな。あんな後出しみたいな感じで大衆の前で堂々と言われたンじゃ、怖くもなるぜ」



グレイがそう言うと、タリスは首を傾げた。



「でも、どうして今更そんな話が出てきたのかしらねぇ?」

「何がなんでも戦争をやめさせたくないからだろうな」



モースにとって正義感が強く、国と民の平和を一番に願うナタリアは邪魔でしかないだろう。

ナタリアがおける今の現状は、元を辿れば預言によって齎された物だ。預言が絡むとなれば、大詠師であるモースが知らない事はない。預言の成就の為に何も言わなかっただけで、彼女が《ナタリア》になった時点でその預言は成就されているから、後は生かそうが殺そうが自由なのだ。

奴にとっての邪魔者を排除するには、このタイミングだったのだろう。どの道ナタリアがアクゼリュスに行かなかったところで、戦争が始まれば当然止める為に動こうとする彼女を消す為にこの話題は持ち出されていたのは想像に難くない。
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