A requiem to give to you
- 馳せる追想、奏でる回顧・後編(1/10) -



自分は何も残していないなんて思わないで。

君は「僕」に確かな光を見出してくれた。

君だから、前を向こうと思えた。

昔は何も出来ないと諦めていた「僕」だけど、君がいつだって真っ直ぐにぶつかってくれていたから……今こうして、応えたいって思えるようになった。

悩みとか、不安とか、全ての人が同じ物を持っているとは思わないし、同情はしてあげられないけど、後ろを向きたいって思うなら、向けば良い。











だけど約束して欲しい。

君に影は似合わない。だからいつか必ず立ち上がって、また眩しいくらいの光を見せて。

そしたら「僕」も、もう少しだけ未来へと進める筈だから───






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「それではレジウィーダ、今日から三日間休暇を言い渡します」

「え?」



長いようで短い船旅を終え、何の障害も無くダアトに到着してイオンに言い渡された休暇命令。てっきり何か手伝いでもするのかと思っていたレジウィーダはぽかんとした顔で首を傾げた。



「今までずっと動き続けていましたから、寧ろこのくらいしか出来なくてすみません」

「え、いやいや! 別に休暇の長さに文句があるわけじゃないって!」



寧ろまともに仕事なんてしてきていないのに休暇も何もないのでは、と疑問すら浮かぶくらいだ。そんな事を思っていると言いたい事を察したのか、イオンは「ああ」と納得したような顔をした。



「今は僕の護衛ですからね。勿論、その分の特別手当も出ます」

「あ、うん。それはありがとうなんだけど……」

「貴女が休暇の間は流石に他の導師守護役に護衛をお願いしますが、休暇が明けたら色々と手伝って頂きたい事もありますのでその時はよろしくお願いしますね」

「それは勿論。いや、あたしが言いたいのはそうじゃなくて……」

「あ、そうそう! 少なくともルーク達と次に合流するまではダアト内での貴女への一切の危害は加えないよう、教団及び神託の盾騎士団にはよく言って利かせておきますので、何かありましたら遠慮なく言って下さい」

「何かめちゃくちゃ手厚い!!」



そこまでされたら寧ろ怖いんだけど!

思わずそう突っ込むが、イオンは首を横に振った。



「いえ、寧ろ手薄いです」

「どこが!?」

「レジウィーダ」



慌てふためくレジウィーダにイオンは落ち着いた様子で名前を呼ぶ。



「貴女は、自分が思っているよりも自身の影響力を理解していません。貴女やグレイが教団に入ってから、今までも様々な者達に変化を齎しました。それは良い事もあれば、勿論悪い事だってある」

「…………」

「況してや貴女は女性です。どうしたって立場が弱くなりやすい…………いえ、性別を抜きにしても、”貴女のような立場”は不相応な扱いを受けてもおかしくはない」



アニスでさえ、そうでしたから。

そう言葉尻に呟かれ、レジウィーダはどう返したら良いのかわからず黙り込む。そんな彼女にイオンは苦笑した。



「意味はわからなくても構いません。ただ、僕は大切な仲間である貴女に嫌な思いをしてほしくはないんです」

「イオン君……」

「今の僕ではこう言った予防線くらいしか張れませんが、やらないよりは良いと思ったので。だからここにいる間だけは、六神将もヴァンもフィーナも……フィリアムにだって手出しはさせませんから」

「どうして、そこまでしてくれるんだ?」



レジウィーダがそう問うと、イオンは優しく微笑んだ。



「貴女は、《僕》の最初の友達だからです」



(貴女にとっては何気ない、いつも通りの挨拶だったかも知れない。だけど、生まれたばかりで周りには己を利用する事だけを考える大人達ばかりだったその中で、貴女だけが……「僕」を「僕」として見てくれた)



『うわはー♪ あの性悪と似ても似つかないくらいめっさ良え子やん! 初めましてだね! これからたくさん遊ぼう!』

『………あっほかテメェは! 目の前の奴が何だか今更分からねー訳じゃねェだろうが! 考えてモノ言え!』

『ふーんだ! 誰が何て言ったってあたしはちゃんとこの子と一から友達になってやるんだから!














───て、事でよろしくね。イオン”君”!』



こちらの事情を知っている者しかいない中での紹介ではあったが、流石に初手の発言で周りの空気が凍りつき、慌てて彼女の幼馴染みが止めにかかるのも気にせず己を貫いた少女。

今でも忘れない。《イオン》としてではなく、ここに《今存在するイオン》と友達になると言ってくれたあの言葉。

あの時初めて、「嬉しい」と思った。彼女は本物のイオンとも仲が良かったと聞いていたが、彼女はオリジナルとは別物と知った上で、誰よりも先に己を受け入れてくれたのだ。

当時の己では最高指導者の肩書きを持っていると言ってもあまりにも立場が弱かった。だから己が選んだ導師守護役が陰で辛い思いをしていても助けて上げる事が出来なかった。……寧ろ、今だってきっとその時よりももっと辛い思いをしているのだと思う。



(ルークのように、力や武器で誰かを助ける力は僕にはない。だけどせめて………手が届くところからでも、僕自身の手で守りたい)



「レジウィーダ、それからトゥナロも」



イオンは目の前で困惑する少女と、その少し後ろでずっと様子を見守っていた小さな魔物に言った。



「この時間が、貴女達にとって良い転機となりますように───」
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