A requiem to give to you
- 馳せる追想、奏でる回顧・後編(2/10) -



*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







イオンと別れたレジウィーダはトゥナロを伴い、一先ず自室へ向かう事にした。

道中に聞いた噂ではヴァンやフィーナ、フィリアムに一部の六神将もここに帰って来ていると言う。イオンの言っていた事を信じていないわけではないが、なるべく鉢合わせない方が賢明だろうと判断し、見つからないよう辺りを気にしながら進んでいた……のだが、



「あっはっはっははははははははぁっ! マジでウケるんですけどっ……いっひひひひヒッーひひっ!!」



目の前で今まで見た事がないくらいに爆笑している存在のせいで全てが台無しになりそうである。



「おーい、クリフーそろそろ戻ってこいよー」



笑い過ぎて過呼吸になるんじゃないかと思われるくらい腹を抱えて笑っているクリフにレジウィーダは細々と声をかけるが、どうにも収まりそうにない。

笑いの対象はそう、彼の目の前でバチバチと第三音素を纏わせて殺気を振りまいている魔物だった。



「このクソガキ……良い加減にしねェとその舌引っこ抜くぞ」

「やっべ言ってることアイツと変わんないじゃん」



さっすがー、とぼやいているとそれも聞こえていたらしいトゥナロが勢い良くこちらを振り返り、慌ててレジウィーダは視線を逸らす。

そんな事をしていると漸く波が落ち着いてきたのか、クリフは「あー笑った笑った」と至極ご満悦な様子で大きく息を吐いていた。



「いやぁ、まさかこんな愛らしい姿になって帰ってくるとは思わなかったね」

「だからお前が行けって言ったのによォ……どうしてくれるんだ」



グルルと唸りながら再度クリフを向くトゥナロ。そんな彼をクリフはヒョイと軽く持ち上げると鼻で笑い飛ばした。



「そんなの知らないよ。私はアリエッタと過ごすので忙しかったからね。……でもまぁ、お陰でたくさんデート出来たし? こうして面白い物も見れたから良かったよ」

「全っぜん良くねェ!!」



じたばたと暴れるもクリフもそれなりに力があるらしくビクともしない。しかも彼自身の主属性が風のせいなのか、先程から微妙に放電しているライガ特有のソレも全く気にも留めていない様子である。

暫く持ち上げたままトゥナロを観察していたクリフだが満足したのか、それとも飽きたのか、それからそっと床に下ろすとレジウィーダを向いた。



「それで、コレはアリエッタにどう説明するんだい?」

「あー……それね。どうしよっかな」



正直考えてはいなかった。素直に現状を説明するべきなのか、それとも黙っておくべきなのか。

どちらが彼女にとって最も平和に事を進められるのかがわからずにクリフを見ると、彼は呆れたように肩を竦めた。



「ホント、考えなしは相変わらずのようで」

「うぅ……こればっかりはあたしだけのせいじゃないしー!」



しかし事故とは言え加担したのは事実なのでこれ以上の反論も出来ずにいると、事態は更に最悪な方向へと向かった。



「シンクの………















ばかぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」



噂をすれば何とやら、たった今話題に上がった少女の涙混じりの怒声が廊下へ響き渡り、更には複数の足音がこちらに向かってくるではないか。



「アリエッタのおやつまた食べたぁっ!!」

「フンッ、お前も学ばないないよね。その辺に置いておくからいけないんだよ!」



どうやら揉めているのはアリエッタとシンクらしい。そのやり取りも既に懐かしいなと感じながらも、レジウィーダはウズウズとする本能に駆け出したい気持ちを抑えながらクリフを見……そして動きを止めた。



「シンク参謀長………また貴方はアリエッタと仲睦ましく追いかけっこなんてしてくれてぇ………」



そう地獄の底から悪魔でも呼びそうなドスの効いた声を出しながら両手にチャクラムを構えていた。

そして二人の姿が見えてきたと同時に駆け出し、



「覚悟ぉぉぉぉぉっ!!」

「! うっわあぶな!?」

「……クリフ?」



こちらに向かって走ってくるシンク目掛けて全力で振り下ろされたチャクラム(使い方を大いに間違っている)。それに即座に気付いたシンクは慌てて横に避け、その後ろから追いかけてきたアリエッタは目を丸くしながら足を止めた。



「ちょっと! 一応上司なんだけど何なのお前!?」

「ふふふ、アリエッタを虐める者は例え上司であろうと許しませんよ」



憤慨するシンクに不気味な笑いを浮かべるクリフ。シンクはそんな彼を見てアリエッタを振り返った。



「アンタのボディガード怖すぎなんだけど!」

「クリフはいつもこんな感じ、です」

「知ってるよ!! だからもう少しアンタから何とか………って、は?」



途中まで言いかけて、こちらを見ている第三者の気配に気付いたらしい。シンクが気配の先を振り返ると、完全に逃げるタイミングを失っていたレジウィーダがぎこちない笑顔で手を振った。



「……やあ、ただいま」
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