A requiem to give to you
- 馳せる追想、奏でる回顧・前編(1/6) -



───ダアトのとある場所。

フィリアムの目の前にスッと一皿のデザートが差し出された。



「これ、ここのオススメなの」

「あ、うん………甘くて美味しいな」

「甘い物は元気が出るって、昔イオン様も言ってたから……たくさん食べて」

「ありがたいんだけど、そんな一気には入ら……」



ない、と言いかけて目の前の少女の目が悲しみを帯び始めたのに気付く。次いでその隣から妙な怒気を感じ、フィリアムはそれ以上言葉を紡ぐのはやめて既に何皿目になるかわからない料理に手をつけ始めた。

ふと、フィリアムは思った。



(何でこんな事になってるんだろう……)



元々休暇の為にダアトにいた。現在ダアトを離れているフィーナを待つ間ただぼーっとするのも落ち着かず、自主練や散策などをして過ごしていたのだが、思ったよりも退屈で逆にストレスになっていた。

前までであれば、グレイが何かと構いにきたり、便乗したディストやシンク、クリフが騒いだり、アリエッタやアッシュ、ヴァン、ラルゴが巻き込まれたり、最後にリグレットの雷が落ちたりと賑やかであった。今はヴァンやモースが本格的に動き出した事により、幹部たちは世界のあちらこちらへと散らばっている。

そして何より、グレイやレジウィーダは敵側へと行ってしまった。

一度離れたからだろうか。レジウィーダに関しては思い出すだけで抑え切れない殺意の感情が湧き出ていたのだが、ここ最近はモヤモヤする気持ちはあれど、そこまでではない。

……勿論、彼女の存在とその記憶により、胸中を支配する悲しみは拭えないのだが。

そんな事を思っていると、偶然アリエッタとクリフに遭遇した。今は任務がないらしく暫く休みだと言うアリエッタはともかくとして、クリフは一応アッシュの副官なのだから、暫く消息が不明となっている彼の代わりにやるべき仕事が山ほどある筈なのだが……クリフ曰く「あくまでもパート業みたいなモノなので♪」らしい。

細かいことはよくわからなかったが、己にどうにか出来る問題でもないと思う事にしてこれ以上突っ込むのはやめた。

それから何故かそのまま二人に連れられ、商業区にある店で一緒にお昼を食べる事となり、現在に至る。



「はい、これも」



そう言って出された皿にフィリアムはそろそろ逆流してきそうになるのを抑えながらストップをかけた。



「アリエッタ、そろそろ本当にげんか、い」

「え、でも……」



まだまだたくさん食べてもらいたいです。

目を潤ませながらの言葉にレジウィーダであれば直ぐ様KOされていたのだろう。彼女のレプリカであるが、性格までは似なかった事に内心感謝しながらもフィリアムは今度こそきっぱりと断った。



「気持ちはすごくありがたいよ。でも、何でも度を過ぎれば逆効果だよ。それに………折角美味しい物があるんだから、楽しく食べたいな」

「………………」



アリエッタは自らの手元の皿に目をやる。そんな彼女に傷付けてしまったかと内心ヒヤヒヤとしながらも見つめていると、アリエッタは顔を上げてそっと皿をテーブルに置いた。



「わかった。無理させてごめんなさい」

「いや、わかってくれれば良いんだよ」



そう言ってチラッとアリエッタの隣で先程からずっと無言で座っているクリフを見る。視線に気付いたクリフは肩を竦めた。



「別に一々私の機嫌を伺わなくても、正しい事を言っている人に対して何もしませんよ」



つまり何か一つでも言葉を間違えていたら、どうなっていたのだろうか。そう思ったが、それも野暮だと結論づけると近くにあったコップを手に取り水を飲む。

その時、隣に誰か来る気配を感じた。



「あーもうっ! ホンット疲れるんだけど!」



イラついたようにドカリ、と隣の席に座り込んだのはシンクだった。どうやら彼も一先ず任務が終わって帰ってきたようだ。



「あ、シンク。おかえり、です」

「てか何、このえげつない量の料理。全然手をつけてないみたいだけど、いらないならボクがもらうよ?」



そう言ってフィリアムが食べ切れなかった料理達に手を伸ばしたシンクの手をクリフが掴んで止める。それに何だと言いたげにシンクはクリフを睨む(仮面越しだがおそらく睨んでいるのだろう)



「シンク参謀長、アリエッタが挨拶してますが??」

「はぁ? 声が小さすぎて聞こえなかったんだけど?」



それよりも離してくれない、と軽く手を払い除けるとシンクはマイペースに料理を食べ始める。それにクリフはフード越しだが明らかにイラついた様子で口元をヒクつくかせるが、見かねたアリエッタが口を開いた。



「クリフ、わたしは気にしてないよ」

「……アリエッタに免じてここは見逃しましょう」

「フン、それはどーも」



そう言ったきり、お互いにそっぽを向きながらそれぞれ料理を食べる二人にフィリアムはアリエッタと顔を見合わせる。しかし少しだけ懐かしく感じるその雰囲気に気分が上がるのを自覚した。
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