A requiem to give to you
- Unforgettable words(1/7) -



人は常に誰かと出会い、関わる生き物だ。十にも満たない子供だって、余程狭い箱の中で大事に大事にされて生きてきたわけでもなければ、数え切れない人を見てきている筈だ。

自分は自他ともに認める面倒臭がりである。別にそれは長所とも短所とも思ってはいないが、楽なのは人と関わることも基本的には面倒臭いから、幼馴染み以外は相手がどんな人間であろうともさして興味もないので好きとか嫌いになる事もない。

このまま、ずっとこんな感じで大人になるのだろうと思っていた。必要なのは手元にあるモノだけで良い。だからこれからも他人なんて気にする必要はない。













……ない、筈だった。

最近、一つの"はじまり"について思い出したことがある。

ソイツは、言ってしまえば完全に他人だ。幼馴染みの家庭教師だか何だかの関係者らしいが、出会った当初はそんな事はわかる筈もない。

だけどそれを抜きにしても、何故かソイツだけは他のどうでも良い奴らのように無視は出来なかった。

初めて見たソイツは、その当時何気なく登っていた樹の下にふらりと現れた。ここに来る奴は大体同じような人ばかりなのもあり、流石に見覚えがないので暫く様子を見下ろしていたら、ふと目が合い笑いかけられた。



『こんにちは!』



普通の挨拶だ。一見すれば明るく元気な女の子のそれだが、何故だろうか。自分と同じ年頃であろうその少女の浮かべる笑みにしてはそれは酷く歪で、どうにも慣れない事をしているような感じがして……思わず言ってしまった。



『お前のそれ、スッゲェ気持ち悪い』



、と───






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







フーブラス川。嘗てはキムラスカに帰る為にと南下してカイツールへと向かう途中に通過した場所だった。

あの時は途中でアリエッタに襲われたり、障気が噴き出してきたりと色々とあったが、現在はまたその時と違った緊張感に包まれながら北上している。



「タリス……頼むから、もうやめてくれ」



ルークは神妙な面持ちでタリスの両肩に手を置くと、何かを堪えるように震える声でそう言った。



「ルーク、だけど……!」



その言葉に何かを言い募ろうとする彼女にルークは被せるように続けた。



「確かに無用な戦いは避けたいし、出さなくて良い犠牲は減らしたいよ。……けど、けどさ!!」



ルークは拳を振るわせ、己の背後を勢いよく指差した。



「敵と会う度に氷像を立てていくのはやめろよ!!」



指差した先。そこには思わず遭遇し、襲ってきたマルクト兵や神託の盾兵らが全身氷漬けとなっているのがそこらかしこに鎮座していた。

ルークに指摘されたタリスは「あら」と己の頬に手を当てて首を傾げた。



「でも、お陰で体力の温存も出来ているし結果オーライじゃない?」

「いやそうだけども!! 何か腑に落ちぬぇ!!」

「それよりもこの惨状を見た他の兵士の方がいっそ可哀想になってくるよ」



ぶっちゃけギャグだよね。

そうフッと笑ったヒースにティアとナタリアは「そういう事じゃない」と大きな溜め息を吐いた。



「暗い雰囲気になるよりは良いけれど、正直楽しんでいる場合じゃないわ」

「そうですわ! 今は一刻も早くアルマンダイン伯爵に話をしに行かなくては……!」



そう、ルーク達は今二つのグループに分かれて動いていた。

シュレーの丘からユリアシティに戻り、テオドーロへ事の報告を済ませてから次なる崩落に備え各所のセフィロトへ行くと話が纏まった。

そのままユリアシティで一晩明かし外殻大地へと飛び立った矢先、東ルグニカ平野では大規模な戦闘……否、戦争が起こっていた。人と人が殺し合う……と言うのもそうだが、何よりも拙いのは戦場がある場所だった。

アクゼリュスに続き、セントビナーが魔界へと沈んでまだ日が浅いが、元々この場所はセントビナーとは陸続きとなっている。支えを失っている今、この場所がいつ崩れてもおかしくはないのだ。……しかもその規模は、恐らく今までとは比べ物にならない程の物になるだろうとジェイドは言った。

これだけの大きさの戦いが始まってしまった以上、下手をすれば崩落が早まる可能性がある。そうでなくとも、セフィロトの操作を行い安全に大地を下ろしたところで戦いにより犠牲が大きくなればなる程、和平への道は遠くなるだろう。

そうならない為にも、今自分達がやるべき事は何か。そこで上がった案はナタリアとルークがキムラスカ側へ行き事情を説明して停戦を促す事、そして戦場から今最も近いとされるエンゲーブの住人を避難させる事だった。

セントビナーもない今、エンゲーブは補給地点としてもこれ以上にない場所だ。マルクトが不利であろう事は明確だが、キムラスカが北上してきた際、まず狙われないなんて事はないだろう。

そこでグループはナタリア、ルーク側へティア、タリス、ヒース、ミュウ……そしてタリスに問答無用で引っ掴まれたトゥナロ。残りのメンバーをエンゲーブへと向かう側として分けた。

そして現在、ルーク達はカイツールへ行ったものの総指揮官をしていると言うアルマンダイン伯爵に会う事が叶わず、その場で現場指揮をしていたセシル将軍からケセドニアにいると情報をもらい徒歩でケセドニアへと向かっている最中だった。
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