A requiem to give to you
- Unforgettable words(2/7) -



道中、マルクト軍と遭遇する事はある程度予想していたが、それとは別に神託の盾騎士団もこちらへと明確な敵意を持って襲いかかってきていた。

ティアやルークが説得を試みるも聞く事なく剣を向けてくる連中に仕方なしに応戦しようとした時、タリスは静かに極寒の譜術を放ったのだった。

不意打ちを食らった敵は文字通り全身が凍り付き、動かなくなった。そのままトドメは刺さずに放置するものだから、ルーク達は何とも言えない気持ちのまま進行を続けていたのだが、あまりにも神託の盾がしつこいのと、タリスが最早楽しんでいるのではないかと思うくらいにノリノリで譜術を放つのがいい加減見ていられなくなり、ついにはルークが突っ込んで止めさせて今に至る。



「何にしても、もう少し行けば流石にどの軍も立ち行けなくなるだろうから、さっさとローテルロー橋の方まで行くぞ」



つまらなさそうにやり取りを見守っていたトゥナロはやる気がなさそうにそう言うと一人でさっさと歩き出す。その後ろからミュウがぴょこぴょこと着いて行くのを見て、ティアがキュン死に耐えながら嬉々として追いかけ、その後ろをヒースとナタリアも続いていった。

そんな彼らを見てルークが苦笑した。



「楽しんでるのはどっちだよ……」

「まぁ、何でも良いじゃない。気楽に……とは言わないけれど、落ち着いて物事を考えられるくらい心に余裕が持てるのは良い事だわ」



さ、私達も早く行きましょう。

そう言って笑うタリスにルークも力強く頷いたのだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







一方、もう片方のグループは既にエンゲーブを発っていた。

アルビオールでエンゲーブへと来たグレイ達は、真っ先に村長であるローズ夫人の元へと向かった。そこで互いに顔も知っているジェイドが事情を説明し、一先ずはケセドニアへ住人を避難する事となった。

流石に住人全員をアルビオールで運ぶ訳にはいかず荷物もあまりにも多いとの事で、大きな荷物や体の不自由な者、小さな子供をアルビオールで先発させ、残りはこちらで護衛しながら徒歩で向かう事となった。

仕方のない事だが戦場を横切る形となる為、隠れながらの移動となるのだが、それでもやはりこれだけの人数を完全に見つからずに行くのは難しく、何度かキムラスカ軍の襲撃を受けてしまった。

幸い、戦闘はジェイド、ガイ、グレイを中心に行い、アニスがそのサポート、そしてレジウィーダが能力で強力な炎の障壁を張る事で住民達に怪我はない。ただでさえ治癒術が使える者がいない為、怪我人だけは絶対に出す訳にはいかなかった。

ゆっくりと、しかし確実に目的地へと進みつつある何度目かの夜。野営を行い、住民達が寝静まった頃にレジウィーダはふと口を開いた。



「今、大体どの辺になるんだ?」

「進行具合としては既に半分は越えています。もう少し行けば戦線から外れるのでキムラスカ軍の襲撃は落ち着きますよ」

「明日にはこの戦場を抜けたいですね。只でさえ和平の為に動いてるのにこれ以上の諍いは勘弁ですよぅ……」



ジェイドの説明にアニスがふみゅうと肩を落とす。それにイオンも疲れの見える表情を隠し切れずに頷いた。



「そうですね。今のところエンゲーブの人たちに怪我はありませんが、やはり幾度となく襲撃を受けるので不安は募っています。ローズ夫人が何とか収めてくれていますが、これ以上負担はかけられません」

「何とか戦闘を回避出来ないもんかねぇ」



ガイが悩ましげに呟く。ルークかナタリアがいたらまた変わったのだろうか、とも考えたがある意味確信犯的なところがあるキムラスカだ。きっと状況はさして変わらないのだろう。

正直なところ、ナタリア達側の方は成功率は低いとグレイは踏んでいた。仮に話を聞いてくれていたとしても、最終的な決定権は国の王であるインゴベルトにある。あの辺は既にモースの手がかかっているのならば、尚の事難しいだろう。

そんな事を考えてると、不意に視線を感じそちらを見た。するとレジウィーダと目が合った。



「何か良い案でも浮かびそう?」



どうやら今話し合っている事の解決策を考えているのだと思われたらしい。残念ながら全く違う事を考えていて、そちらの方面はちっとも意識していなかった。



「あー……そうだな。いっそオトリでも出してみるか?」

「負担が大きすぎます。仮に出すとして、誰がやるんですか?」



バッサリとジェイドに切り捨てられてしまった。しかし通らないだろう事は予想はしていたので、グレイもさして感情を荒らげるわけでもなく首を横に振った。



「いや、現実的じゃなかったわ。悪いな」

「……いえ」



素直な謝罪にジェイドは目を瞬かせると、直ぐに元の表情に戻り辺りを見渡した。



「今は我々がどれだけ相手の動きを把握して動けるかにかかっています。明日は少し進行速度を早めて戦場外へと行きましょう」

「ま、それしかないよな」



ジェイドの言葉にガイは苦笑し、残りのメンバーも同じように頷いた。

それから話は終わった、とジェイドは両手を叩いた。



「さ、明日も早いのですから、ここは大人に任せてあなた達もそろそろ休みなさい───特にレジウィーダとグレイ」



遅くまで起きてたら、わかってますね。

そう言って眼鏡を光らせるジェイドに名前を呼ばれた二人は黙って頷くしかなかった。
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