The symphony of black wind
- 漣と自鳴琴(1/5) -


壮大に広がる青い海。ミライ達は今、マックスの船でパルマコスタへと向かっていた。天気が荒れる事も噂の巨大な魔物とやらも出て来る事もなく、ロイドとクラトスは剣の稽古をし、ジーニアスは読書、リフィルは隅の方で本を読みながらブツブツと何やら呟いており、コレットは海の上を飛ぶカモメを見るなど、それぞれ自由にしていた。



「海は広いな大きいな〜♪」



ザザァーンと心地の良い波の音を聞きながらミライは昔よく皆が歌ったであろう歌を口ずさんでいた。



「月がのぼるし、日は沈む〜♪」

「ミライ上手〜!」



歌を聴いていたのかコレットが拍手を送っていた。それにミライはニシシと笑いながら「サンキュ」と返した。



「でも聞いた事がない歌だね」

「まぁな」



そりゃ地球での歌だし……とまでは言わなかった。



「ミライが作ったの?」

「いや、そう言うわけじゃないんだけど……」



どう答えたものか。ミライは返答に困っていた。しかしそんな彼の心境など知らないコレットは「そう言えば」と思い出すように手を叩くといつか彼が彼女の誕生日プレゼントとして渡したオルゴールを取り出した。



「そう言えばこのオルゴールの曲も聴いた事がない曲だよね」



それにミライは頷いた。



「ああ、それは俺が作った曲だから」

「! そうなんだ。すごいね〜」

「ありがとう」



ミライはそう言って笑うと、コレットの持っているオルゴールを自分に渡すように言った。そしてそれを受け取ると蓋を開け、中にある螺子を取り出して外にある穴に差し込んで回した。






♪〜〜♪〜〜〜〜♪〜






オルゴール独特の可愛らしい旋律が流れた。



「不思議な音色だね〜。優しくて静かなのに、何だかとても心が癒されて、とても元気になる」

「そうだな」

「ミライ、音楽家の才能があるね!」



コレットがそう言うと、ミライは苦笑した。



「そう、かな……」

「そうだよ〜。だってこんなに上手なんだもん」

「音楽家、かぁ」



元々、ミライはこうした曲を作るのが好きだった。昔、まだ地球にいた頃もよく思いついた旋律を紙に書き殴ってはピアノやハーモニカなどの楽器で拙いながらも弾いたりもしていたものだ。いつしかそれを形にして、いつでも聴ける物としたい。他の誰かにも、自分が居なくても聴ける様にしたい。思いを届けたいと願ったのはいつだったか。それで思い付いたのがオルゴールだった。自鳴琴、とはよく言ったもので、これ程己の願いに合う物はなかった。

それからミライは作り方を一生懸命に調べて、時に人の手を借りては何度も失敗を重ね、そして作っていった。最初からシリコン製だなんて無茶振りを噛ましていたが、今思えば良い思い出である。

作ったオルゴールはまず最初にとても可愛がっていた弟分でもあった幼馴染みに渡した。オルゴールには癒しの効果もあって、それが当時色々な事情で荒れに荒れていたその幼馴染みに少しでも安らぎを与えられたらと思って渡したのだ。そしてそれが思った以上に気に入ってくれたみたいで、ミライはもっともっと沢山の曲を作ってはオルゴールにして色んな人に渡していった。そんな時に、言われた事がある。



『アンタは音楽家に向いているのかもね』



―――と。それも悪くないと思った。自分の作ったモノによって誰かが喜んで、笑ってくれるなら……それ以上に幸せな事などないと思った。只でさえ"訳有り"な者達が多かったから、余計にそう思った。



(そう、夢見ていた時もあったんだなぁ……俺も)



その夢も今はもう叶う事もなくなったのだが。今思うと少し残念な気もするが、でもこうしてまた自分の作った物で喜んでくれる人がいるのだから、それはそれで良いのだと思う。



「ねぇ、ミライ」



コレットに呼ばれ、「ん?」と振り返る。



「もう一度、さっきの歌を唄って欲しいな」



両手を合わせながら言うコレットにミライは微笑み、「良いよ」と頷いた。そしてスゥと息を吸って、唄い出した。



「春の海辺に 煌めく波……」



  潮風ポカポカ つつまれて


  夏の海辺の 日差し浴びて

   みんなの笑顔が 元気じるし


  秋の海辺の まんまる月

   優しい光に 癒されてく


  冬の海辺の 星座の群れ

   耳をすませたら 聞こえる愛


   "海は広いな 大きいな

     月がのぼるし 日は沈む"

   "海にお船を 浮かばせて

     行ってみたいな よその国"


  海は広いな 大きいな

   月がのぼるし 日は沈む


  海にお船を 浮かばせて

   行ってみたいな よその国

  世界をみんなを 繋いでいるよ

   僕らの海 永久に続け……


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