The symphony of black wind
- 悲しき旅立ち(1/3) -


悲劇とは、本当に突然やって来るものだと思う。



「これは……っ」



ミライは目の前の状況に驚愕した。急遽、朝早くから仕事が入った。ミライはフェイロンを呼び寄せ、見送りには間に合わないと思いつつも急ぎダイクに頼まれた物を届けに出発した。そしてその帰り、村から煙が上がってるのが見え慌てて来てみた。しかし村には昨日までは確かにあった筈の溢れんばかりの笑顔はなく、家の焼け跡と人の死体と、悲しみと怒りに顔を歪める人達しかなかった。



「どうしてこんな事に……」



そこまで考えて昨日の出来事を思い出した。



(まさか、昨日の事がバレた……!?)



「ミライか?」

「! ファイドラ……さん」



聞こえてきた声に振り返るとコレットの祖母のファイドラ、父のフランクがいた。



「一体何が起きたんだ? コレットは……ロイドとジーニアスは!?」

「とにかく落ち着くんだ。事情は私が説明しよう」



フランクの言葉にミライは取り乱しかけた心を落ち着かせ、話を聞く体制に入った。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







その頃、ミライが心配しているロイドとジーニアスはノイシュを連れてトリエット砂漠に向かっていた。



「うー……疲れたぁー」

「疲れたって……まだイセリアを離れて半日も経ってないよ」



早くも疲れ果てている親友に呆れた視線を送るジーニアス。



「ほら、早くコレット達に追い付くんでしょ!」

「わかってるけどさー……はぁ」

「溜め息付きたいのはボクの方だよ……」



これじゃいつまで経っても追い付けやしない。苦労人の12歳・ジーニアスは年に似合わず盛大な溜め息を吐いた。



「もう、5分だけ休憩したら行くからね…………ん?」



何かに気付いたらしいジーニアスは、自分達が今まで歩いてきた道を振り向いた。ロイドも同じ様に見ると、何かがものすごい速さでこちらに近付いてくるのが見えた。そしてその何かは……





















ドンッ



















「ぐへっ!?」



何事もなかったかのようににロイドを轢いていった。



「あ、こんな所にいやがった」



彼を轢いていった何かは10メートルくらい先で停止した。そして再び近付いてきて、目を白黒させるジーニアスとタイヤの跡がくっきりと残ったまま倒れているロイドに声を掛けた。



「ミライ……?」



そう、その何かとは装備万全でマウンテンバイク(モドキ)に乗ったミライだった。その後ろからノイシュも着いて来ていた。



「いてて……何すんだよミライ! ……って何だそれ!?」



起き上がる早々怒りを忘れてマウンテンバイク(モドキ)に釘付けなロイド。その上でミライは額に青筋を立てて引き攣った笑みを浮かべていた。それに気付かず目を輝かせながらマウンテンバイク(モドキ)をペタペタと触るロイドの頭に強烈なゲンコツが降った。


「い゙っ!?」

「……お〜ま〜え〜らぁ〜〜〜〜〜」

「「!!?」」



地を這うようなその声に涙目になって脅える二人は、人生最大のピンチとやらを味わっていた。そんな二人の様子を暫く見ていたミライは普通の表情に戻り一つ息を吐いた。



「……事情は聞いた」



その言葉に一早く反応したのはジーニアスだった。



「ロ、ロイドは悪くないよ!! だって……だって牧場に案内したのは、ボクだから!」

「何言ってんだよ! あそこで騒ぎを起こしたのは俺だ! だから俺が悪いんだ……」



いきなり言い争いを始めた二人に、ミライは再び息を吐くと首を横に振って口を開いた。



「待てよ、俺は別に誰が悪いだなんて言ってないぞ」



それに悪いと言えば……俺にも当てはまるんだからな。そう言うと二人は大人しくなった。寧ろ一番悪いのは自分かも知れない。本来注意するべき立場である自分があの時進んで行くだなんて言わなければ、誰も死なずに済んだかも知れないのに……。

ミライはそう思いながら、マーブルさんを始めとする亡くなった村人達に心の中で謝罪した。


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