The symphony of black wind
- 旅立ち前夜(1/4) -


人間牧場に着いたミライ達は監視のディザイアンに見付からないようにしながら何とかジーニアスの知り合いの所へと行った。



「マーブルさん!」



ジーニアスが知り合いの名を呼ぶとそこにいた白髪の老女が嬉しそうに笑いながら近付いてきた。



「ジーニアス。そちらはお友達?」

「うん! ロイドとその義兄さんのミライだよ」

「そう……よろしくね」



ジーニアスに紹介されロイドと二人軽く頭を下げて挨拶をした。その後ジーニアスとロイドとマーブルさんの三人で何気ない話をし始めた。ミライは辺りを見渡し、その状況を見て顔を顰めた。

噂には聞いていたが酷い所だった。高い柵に囲まれた向こうに労働させられている人達が見える。その側にはディザイアンが鞭を構えて監視していて、少しでも働きが悪ければそれを容赦なく打ち付けるのだ。このマーブルさんも例外ではなく服から見える手や足は傷だらけだった。それはロイドも気付いていたがあえて何も言わなかった。

マーブルさんを見ていたロイドの視線が彼女の手に止まった時に「あっ」と声を上げた。



「おい、ばーちゃん!」

「マーブルさんでしょ!」



ロイドの言葉にすかさずジーニアスが訂正を入れる。



「マーブルさん。その手の甲に着いてる宝石って、エクスフィアじゃないのか?」



ロイドがそう言うとマーブルさんはキョトンとしてから、しっかりと張り付き根を下ろした小さなエクスフィアを撫でた。



「そう言う名前なの? ここに来て直ぐに埋め込まれた物なんだけど…」

「……うん、やっぱりエクスフィアだ。でも《要の紋》はどうしたんだ? 要の紋無しでこれを装着するのは体に毒らしいぜ」

「どういうこと?」



ジーニアスが不安げに聞いてくる。



「エクスフィアは肌に直接着けると病気になると言われているんだ。だけど直接着けなければ宝石の持つ力を発揮しない。だからエクスフィアから毒が出ないように制御する呪い(まじない)を要の紋って言うんだよ」

「だけどその呪いは特別な鉱石に刻み込んで土台にするから、土台自体がなければ俺達じゃあどうしよもない」

「そんな……!」


ロイドの言葉を引き継いだミライがそう言うとジーニアスは泣きそうに叫ぶ。



「何とかならないの!」

「何とかって言ってもなぁ……」



ロイドは頭を掻きながら渋った。ジーニアスの気持ちは二人には痛い程伝わったが、なかなか首を縦に振る事が出来なかった。



「要の紋はドワーフの特殊技術なんだぜ?」

「ロイド達の義父さんはドワーフでしょ? なら作れるんじゃないの?」



意地でも引かないジーニアスにロイドの方が根負けしてしまった。



「あー、わかったよ。何とか頼んでみるよ」

「ホント!? だからロイドって好きだよ!」

「どわっ!? わかったけどいきなり抱きつくな!」



そんな風にじゃれる二人をマーブルさんは微笑ましそうに見ていたが……



「お前ら、ここがどこだか完全に忘れてるだろ……。それよりジーニアス、お前マーブルさんに言う事があったんだろ?」



呆れながらもそう言うとジーニアスは「そうだった!」と言ってロイドから離れ、マーブルさんを向いた。



「マーブルさんは見た? 今日は神託があったんだよ」

「えぇ、ここからでも救いの塔が見えたわ。これで漸く神子様の再生の旅が始まるのね。今度こそ……成功してくれると良いのだけれど」

「前の神子は途中でディザイアンに殺されて失敗してるみたいだからな」



コレットは責任重大で大変だな、と言うとロイドとジーニアスはうんうんと頷いた。



「出来ればコレットの力になってあげられたら良いのに……」

「…………」



ロイドが悔しそうに俯くのを何も言えずに見つめる事しか出来なかった。いつもだったら「それなら精一杯彼女の側にいて守ってやれよ」と言っていたかも知れない。でも今回はそんな軽率な発言を出来る程事態は甘くない。それ程までに危険なものだからだ。……とは言っても、彼の事だから黙っていればその内無理矢理でもついて行こうとしそうだが。

そんな事を考えていたミライは、マーブルさんのすぐ側にディザイアンが通りかかったのを見過ごしてしまった。



「おい! そこのババァ、何をしている!!」

「! いけない、ディザイアンが来るわ! 三人とも早く逃げなさい!」

「でも……!」

「ロイド! 俺達は見付かるわけにはいかないんだ!」



今見付かればマーブルさんだけではなく、村の人も只では済まないだろう。そう言って聞かせながら渋るロイドの腕を引き、ジーニアスを担いで急いでその場から離れた。


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