The symphony of black wind- 旅立ち前夜(2/4) -
先程の場所から離れた後、残ったマーブルはディザイアンに連れて行かれその弱った身体に鞭が打たれた。崖の上からその様子を見ていたミライ達は唇を強く噛んだ。
「クソッ、もう少し俺が早く奴らに気付いていれば……!」
そう言って地面を思いっ切り殴る。するとロイドは勢い良く立ち上がり、とんでもない事言い出した。
「やっぱりマーブルさんを放っておけないよ! ジーニアス、あいつらを魔法で攻撃しろ!」
「「はぁ!?」」
突拍子も無さ過ぎるその言葉にジーニアスと二人素っ頓狂な声が出しながら言い出した本人を見た。
「そ、そんな事して良いの!?」
「良いの! お前が攻撃した瞬間、俺が囮になって奴らを引き付ける。その間に二人は茂みに隠れながら村へ戻るんだ」
無茶苦茶だ。そう思ったが、ロイドがこう言う考え方をするのは今更だと諦め、ミライは一つ溜め息をついて頷いた。
「……わかった。だけど、絶対に顔は見られるなよ」
「あぁ! じゃあジーニアス、頼む!」
ロイドはジーニアスに向かって言うと少々躊躇っていたが、すぐに頷いて剣玉を取り出し詠唱を始めた。
そして、
「ファイアボール!!」
放たれた火球はマーブルの周りにいる三人のディザイアンに命中した。それと同時にロイドも駆け出し、態と彼らに見えるように門の上を通り抜けた。気付いたディザイアンも急いで正門を開け、ロイドを追い掛ける。
「行ったか。マーブルさんも大丈夫みたいだな」
「良かったぁ……」
ジーニアスは胸に手を宛てて安堵の息を漏らした。しかし、安心するのはまだ早い。
「俺達も行くぞ」
「う、うん!」
そしてミライ達は崖を降り、ロイドを追い掛けているディザイアンに気付かれないようにこっそりと牧場を離れようとした………が、ジーニアスが石に躓いて転んでしまった。
「! 何だ?」
転んだ時に漏れたジーニアスの声が彼らの耳に入り、ミライ達を向くと直ぐ様武器を手に襲い掛かる。
「貴様らぁ!!」
「……チッ。仕方ない、悪く思うなよ!」
振り下ろされた武器を避け、ミライは素早く体勢を立て直すと腕を上げ、その手にマナを集中させた。
「暗黒の鳥籠……ダークスフィア!!」
そう叫び腕を振り下ろした瞬間、収束していたマナは黒い光となってディザイアンを包み込んだ。
「ぐあああああああっ!!」
絹を裂く様な悲鳴を上げて絶命した敵に心が締め付けられる思いに駆られたが、首を振ってその思いを振り払うとジーニアスを抱えた。
「ノイシュ!」
その名を呼ぶと近くにいたノイシュが現れ、そのままジーニアスと共に飛び乗った。
「ロイドの元へ頼む!」
「ワォン!」
ノイシュは一鳴きすると高い崖を一気に下った。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
「ロイド!」
「おっ! 二人とも無事みたいだな」
森の入口まで戻ると丁度ロイドも降りて来たばかりだった。怪我一つない様子に安堵の息が漏れる。
「そっちも無事みたいだな。……ったく、無茶しやがって」
半眼になってそう言うと、ロイドは苦笑いを浮かべた。反対にジーニアスは泣きそうに顔を歪めて俯いた。
「ごめん。ボクのせいで二人を危険な目に遭わせちゃった……」
「良いよ、そんな事。また宿題代わりにやってくれれば良いから!」
な?とロイドが言うと元気を取り戻してきたのか、ジーニアスは笑顔になって頷いた。
「よし、じゃあジーニアスはもう村に戻れ。あまり遅くなってリフィルを心配させるといけないからな」
「うん。……二人とも、マーブルさんを助けてくれてありがとう!」
そう言ってジーニアスは手を振りながら村へ帰って行った。
そして、
「ロイド」
「な、何だよ…?」
「ジーニアスに宿題を代わりにやってもらうってどー言う事だか是非とも説明をしてもらいたいなぁ?」
「あ、はははは………」
ズルはいけません。
その後ロイドは30分間キッチリとミライのお説教を受ける事になったんだとか…。
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