A requiem to give to you
- 国境の砦(1/11) -


「月夜ばかりと思うなよ」



最早普段の彼女の面影は微塵もなかった。寧ろ、彼女の性格を知る者からすればそれはあまりにも予想通り過ぎて妙に納得してしまうのである。そんな気持ちでレジウィーダは恐らく初めてお目にかかったであろうルーク達を見れば、やはり固まっていた。そのくらい、彼女……アニス・タトリン(13)の隠された裏の顔のインパクトは強烈なのであった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







フーブラス川を抜け、後から追い付いてきたグレイ、タリスとの合流も果たし、一行は無事に国境であるカイツールへと到着した。道中、ティアがフーブラス川で歌った譜歌についてやら、彼女は実は始祖ユリアの子孫かも知れないとの話が持ち上がったり、クリフの正体についてレジウィーダやイオンへの軽い詰問があったりもしたが、結局は謎に包まれたままである。

そんなややすっきりとしない気持ちを抱えながらも国境への入口へ来てみれば、タルタロスの襲撃に遭って以降(レジウィーダ、ヒースはセントビナーで会った)見る事のなかった、黒髪をツインテールにした少女の後ろ姿が目に入った。



「あれ……って、アニスじゃないか?」



先頭を歩いていたルークが一番に気が付き、アニスを指さして言えばイオンが嬉しそうに頷いた。直ぐに声を掛けようと思ったが、何やら門前の兵士と真剣に話をしているようなので、立ち止まってそのまま少し様子を見てみる事にした。



「証明書も旅券もなくしちゃったんですぅ〜。通して下さい、お願いしますぅ」

「残念ですが、お通し出来ません」



まぁ、それが普通だよね。そう思いながら苦笑していると、アニスは目に涙(?)を溜めながら更なる試みに出た。



「どうしてもダメ………ですか?」



うるるん、と言う効果音でも付きそうなその姿にレジウィーダは思わずKOされかけるが、後ろにいたグレイに頭をひっ叩かれる事によって我に返った。



「お願いしますぅ……」

「出来ません」



アニスの懸命なお願いも、淡々とした一言により一蹴された。それにどうあっても無理と判断したのか、残念そうに肩を落とし、そこから去るのかと思いきや……
















「月夜ばかりと思うなよ」



やはりアニスはアニスだった。ボソリと呟いた筈が思いっ切りこちらには丸聞こえである。彼女の性格を知る者達から見れば苦笑ものだが、そうでない者達はやはりと言うか……目を丸くして固まっていた。ルークなどは特にわかり易い。



「アニス、ルークに聞こえちゃいますよ」



と、イオンがいつもと変わらぬ笑みを称えながら言うが、最早手遅れである。アニスは誰かに話し掛けられた事によりドスの利いた声で「あ゙あ゙?」などと言って振り返ったが、その目に捉えた存在が何であるかを理解するとパァっと笑顔になりルークに飛びついた。



「きゃわ〜んv アニスの王子様ぁ〜♪」

『……………』



そのあまりの変わり身の早さに誰もが言葉を失った。ルークの後ろにいたガイが小さく「女ってこえー」と若干聞き捨てならぬ事を言っていたが、目の前の状況も事実なのでレジウィーダは我関せずを貫いたのだった。



「ルーク様ぁ、ご無事で何よりですぅ。もうずっと心配してましたぁv」

「こっちも心配したぜ。タルタロスから墜ちたんだってな」




その言葉にレジウィーダは「ん?」となった。タルタロスと言えばマルクトの巨大戦艦だと言うのは有名な話だ。そんな場所から墜落し、しかもトクナガはタリスが持っている。セントビナーでは特に大きな怪我をしたようには見えなかった。ならばどうやって助かったのだろうか……?



「まぁ、アニスですから♪」

「声に出してた?」



いつの間にか隣に来て思考に割って入ってきたジェイドにそう問えば、彼は一言「いいえ」と言って首を横に振った。


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