A requiem to give to you
- 城砦都市(1/13) -


聖獣の森。木々が生い茂り、僅かな木漏れ日の差す神聖たる奥の間には以前、ライガ達の母なる王がいた。しかし今はその姿はなく、無惨にも壊された卵だけが残されていた。仲間からの知らせを受けたアリエッタは彼らから聞いた言葉が信じられず、彼女が最も信頼する友達の一匹に乗り、急いでこの場所へとやってきた。そして報告と寸分違わぬその惨状に言葉を失ったのだった。



「………………っ」



ママ、と小さく呟かれた言葉は声にならず空気へと消えた。アリエッタはゆっくりと唯一残っている、彼女にとって新しく兄弟となる筈だった命の残骸へと近付いた。



「こりゃまた、無茶苦茶やったもんだね」



アリエッタと共にやってきたシンクは辺りの荒れた状況を見て呆れたように肩を竦めた。そして隣で少女の小さな背を眺めているグレイを見て言った。



「これ、死霊使いらがやったと思う?」

「まぁ、まず間違いねーだろうな」



あの卵を見る限り、かなりの圧力によって潰されている。まず武器ではあのような壊れ方はしないだろう。それにあの譜術に強いとされるライガ(それも女王)をも纏めて葬り去る程の術者となれば時期的にも、森の近くにあるエンゲーブが親書の受け取り場所だった事からも死霊使いの線が一番可能性としては高いのだ。

グレイはもう一度アリエッタを見た。卵を見つめたまま動かない彼女はこちらに背を向けている。



「泣いてる?」

「さぁな」



シンクの問いに肩を竦める。彼には母親と言う存在がいない。だから彼女の悲しみはわからない。だがこの空気には流石にいつものように彼女を小馬鹿には出来ないでいるようだった。



「アリエッタ」



グレイはアリエッタに近付き、その顔を覗き込んだ。彼女は……泣いてはいなかった。



「オイ」



もう一度呼び掛けると、アリエッタは何かを堪えるように目を瞑り、地面に引き摺ったままの縫いぐるみを持つ右手に力を入れた。



「アリエッタは……泣かない、です」



絶対に、泣かない……と、繰り返す彼女をグレイは黙って見ていた。



「でも、許さない……ママを、アリエッタの兄弟達を奪ったあの人達を……アリエッタは絶対に許さないっ!!」



そこにあるのは怒り、そして憎しみ。アリエッタは再び目を開くと縫いぐるみをキツく抱き締め、足早にその場を後にした。それを見ていたシンクは面白そうに笑った。



「ははっ、許さないだって。良いのかい? 奴らの仲間の中にはアンタの知り合いもいるそうじゃん」

「そうだな」

「あの目は殺る気だよ。アイツもあんな目を出来るんだね」



少しは見直したよ、とケラケラと笑い続けるシンクを無視し、グレイは面倒臭そうに頭を掻きながら歩き出した。



「止めないの?」

「……別に。コレに関しちゃあ、あいつらの問題だ。自分らで蹴り付けるだろ。そうそう死にそうな奴らでもねーし」

「適当だね。それとも嘗めてる?」



アリエッタはアレでも一応神託の盾の幹部だよ。その言葉にグレイは足を止めてシンクを振り返った。



「嘗めてンのはテメェだろ? 下らねェ事言ってないでとっとと戻るぞ」



吐き捨てるようにそう言って再び歩き出す。グレイが見えなくなるとシンクは詰まらなさそうに口元を歪めた。



「……フン、何をムキになってるのさ。馬鹿じゃないの。どいつもこいつも」



ムカつくんだよ、と吐き捨てると同時に卵の残骸を蹴り飛ばした。






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