A requiem to give to you- 戦場の再会(1/10) -
漸く見つけた貴方は、遠く離れていた。覚えのある背中を見つけて、本当ならば直ぐに駆けていきたかった。……けれど出来なかった。貴方の手にある"物"を見て、この艦に乗っている筈の者達とは違う……明らかな異質さにその足を止めてしまった。
ねぇ、陸也。貴方は一体、何をしているの……?
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
「涙子……?」
その名で呼ばれるのは、この世界の年の数え方で言うならば実に二年振りだった。目の前の彼は二年前と比べ、左目以外は特に変わった所は見られない。だからこそこの場には不釣り合いで、その手にある物は違和感があった。自分でさえこれなのだ。彼からしてみれば自分に対してもっと強くそれを感じているのかも知れない。
目の前の少年……陸也はゆっくりと近付いてきた。
「涙子、お前……どうしてここに?」
彼にしては珍しく戸惑いがちに問われ、タリスは答える事が出来なかった。
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──―
─―
ドオォォォォンッ
けたたましい爆音と揺れが艦内に響き渡った。ジェイドが出て行ってから随分と経つが、何かあったのだろう。
「そう言えば、急に寒くなったわねぇ」
一応暖房は完備な筈だったのだけれど、とタリスは嘗て(?)窓があったと思わしき場所を振り返った。
「ガルル………」
「今度はまた随分と毛深いお客さんがいらしたものねぇ」
振り返った先には窓どころか壁一つなく、数頭のライガが唸り声を上げてタリスに迫り寄っていた。しかしあと数センチと言う所まで近付いた時に急に彼女から顔を逸らし、タリスの後ろにある卵に目を向けた。
「これが、気になるの?」
そう言って卵を膝の上に乗せるとライガ達は困惑した様子を見せた。恐らくこの卵から同族の気配を感じ取ったのか、もしくはライガクイーンの匂いを嗅ぎ取ったのだろうかはわからないが、タリスはある事を思い付くとライガに話しかけた。
「ねぇ、ライガさん。ちょっと訊きたい事があるのだけれど」
突然話しかけられた事に驚いたのか、ライガ達は警戒するように数歩下がってタリスを睨みつけた。やはり霊魂とは違い直接人の言葉が通じる訳がないかと思いつつも、彼女は諦めずに続けた。
「貴方達、アリエッタと言う方をご存知ないかしら?」
「!!」
「知っているのね?」
"アリエッタ"の部分を強調して言えば、微かに目を見開いたのがわかった。知っているのなら、話が早い。
「ねぇ、ライガさん。私を……」
「ヤローてめーぶっ殺おおおおぉっす!!」
突如、タリスの声を遮るようにしてドスの利いた少女の声が響き渡り、外を何かが落ちていった。
「何だか聞き覚えがあるような気がするわねぇ……あら?」
穴に近付き外を見て苦笑していると、今度は先程よりも小さい物が落ちてきた。思わずそれをキャッチすると、アニスの背負っていたあの不気味な縫いぐるみだった。
「これは……使えるかも知れないわねぇ」
と、小さく笑い縫いぐるみを抱えて卵の元に戻ろうとして気が付いた。
「あらまぁ……」
いつの間にかライガの姿はなくなっていた。
「見逃してもらった……のかしら?」
出来ればそのアリエッタの元へ連れて行って貰いたかったのだけれど、と呟く。しかし直ぐに気を取り直すとベッドのシーツを剥ぎ取って卵を包み、大穴から外へと飛び出した。
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