A requiem to give to you- 戦場の再会(2/10) -
何とか甲板まで辿り着くと、そこは今までに見た事のないくらいの死体が散らばり、胸の辺りが苦しくなった。
(これが……戦場)
思わず片手に持つ縫いぐるみを強く握り締めていた。タリスは思いを振り切るように首を振ると、ルーク達を探す為に足を進めた。
その時、見つけてしまった。
「! あれは……!?」
見間違う筈がない。ずっとずっと、会いたかった存在。タリスは直ぐ様駆け出そうとして、思い留まった。
何故彼がここにいるのか。服装からしてもマルクト兵とは明らかに違う。だが彼のその手にある譜業銃を見れば、彼が何をしてきたのか大体わかってしまった。
「陸也、貴方は……」
そう苦しげに呟いていると、不意に彼がこちらを見た。黒と、いつの間にか変わっていたその左の金の目が段々と見開かれていき、ゆっくりと彼女の元の名を紡ぐように唇を動かした。
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「グレイ!」
俯いたまま動かないでいると、突然遠くからそんな声がした。それにハッとした陸也は声の主を振り返り、タリスもそれに倣う。
「鑑橋は占領した。あとは導師にシュレーの丘のパッセ………」
そう言って陸也に近付いてきたのは金髪の女性だった。その後ろにはタリスを見て驚いた顔をしているイオンがいた。彼は小さく「タリス……」と彼女の名前を呟くと、どこか安堵したように息を吐いた。一方、女性の方はタリスの姿を捉えると言葉を止め、警戒の色を見せた。
「何者だ?」
武器こそ向けられないが、彼女の手は腰のホルスターに添えられ、いつでも構えられるようになっている。タリスはそんな彼女達の様子から、漸くこの状況を把握した。この者達は導師イオンを誘拐する為にここを襲いに来たのだと。
(参ったわねぇ……)
これは流石に逃げられそうにない。チラリと陸也……いやグレイを見れば、彼は複雑な表情で見返してきた。
その時、イオンがタリスの前に立ち二人に言った。
「リグレット、グレイ……彼女はマルクト軍の者でも、神託の盾の者でもない民間人です。森にいたところをマルクト軍が一時的に保護しただけの事。だから……彼女には危害を加えないで下さい」
その言葉にリグレットはグレイを見ると、彼は肩を竦めた。
「導師の言葉は間違ってないと思うぜ。コレがどう見たって軍人に見えるもンかよ。あの死霊使いの事だ、勝手に不審者扱いして無理矢理連れて来られたンだろ」
「まぁ」
よくわかったわねぇ、とついいつものノリで返すとイオンの表情に苦笑が浮かび、リグレットはグレイを半眼で見つめた。
「随分と肩入れをするのだな。他者には関与したがらないお前が」
「そう言われてもよ……」
リグレットの言葉にグレイは困ったように頬を掻く。次いでタリスの肩を引き寄せると彼女に言った。
「だってコイツ、同郷の知り合いだし」
「…………は?」
彼女にとってはかなり予想外な事だったのだろう。ポカンと口を開けて固まってしまった。またイオンも固まりはしないものの「そうだったんですか!?」と大きな目を丸くさせて驚いていた。
「そうなんだよ。もうずーっと探してたンだぜ? まさかこんな所で会えるたァ思わなかったけどな」
「……なら、その娘をどうするのだ?」
硬直から解けたリグレットが呆れながら訊くと、グレイは今度はあっさりと答えたのだった。
「勿論、連れて行くに決まってンだろ」
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