A requiem to give to you- 食糧の村(1/5) -
外へと出たあなたは、とても輝いた瞳で世界を見ていた。初めて見る物、初めて触る物、初めての体験だらけ。けれどそれは素晴らしく、嬉しい体験ばかりではない。
襲い来る魔物、突き付けられる現実の厳しさ。それをこれからあなたは受け止めていかなければならない。
でも、それは私も一緒。だから……これから一緒に背負っていきましょう。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
「行きたいです」
「駄目だ」
「何故ですか」
「人数は足りてる」
「多いに越したことはないと思いますが」
「それでも駄目だ」
「でも行きたいです」
「だから駄目だと……」
言っとるだろうがァッ!!
ダンッ、と怒鳴りながら勢い良くテーブルを叩いたのはファブレ公爵。先程からずっとルーク達を探しに行きたいと言うヒースと無限ループの口論を繰り広げていたが、漸く終わりそうである。
「ルークも良い友達を持ちましたね」
「そうですね……って言うか」
何故貴女がここにいるんですかシュザンヌ様。先程までルークがいなくなったショックで動けませんでしたよね、とガイは心の中でツッコミを入れた。
昨日、突如としてヴァンを狙ってやってきた刺客の女性と共にルーク、そしてタリスが疑似超振動に巻き込まれてどこかへ飛ばされてしまった。調査の結果、彼らはマルクトの方へと飛ばされたのだと言う。ヴァンの話によると、刺客の女性とは彼の実妹のティア・グランツだった。何故ヴァンを狙うのか、その理由はわからなかったが、恐らく彼女は今もルーク達と共にいるのだろう。ヴァンが言うにはルーク達には決して危害は加えないとの事だ。しかしファブレ公爵達からすれば本命ではなかったとは言え、屋敷に侵入しあまつさえ息子を誘拐された事には変わりはない。正直、気が気ではないだろう。
「納得できません。確かに僕はガイさんやグランツ謡将程強くなどありません。けれど、」
「だが外はお前が思っている程甘くはない。それに、今のお前ではグランツ謡将らの足枷にしかならない」
「………!」
ヒースの言葉を遮りながらきっぱりと放たれた言葉に、彼は何も返せなかった。
「魔物だけなら何とかなるやも知れん。だが、お前に人の相手は無理だ」
これは遊びではないのだからな。
そうまで言われてしまえばヒースは俯くしかなく、悔しそうに強く拳を握り締めると静かに礼をして部屋を出て行った。
「……あなた」
シュザンヌは複雑な表情でファブレ公爵を見る。それに公爵は首を振り、ガイを見た。
「ガイ」
「はい」
「ルーク、……そしてタリスの事、任せたぞ」
それっきり公爵は黙り込み、俯いた。今彼がどんな思いで、どんな表情をしているのかはガイからは見えない。それでもガイはその事を言及する事なくただ一言、「畏まりました」と言った。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
今、とある一軒の家では何ともピリピリとした空気が流れていた。片ややんちゃ盛りな17歳のお坊ちゃま。片や厳つい顔したおじさん、お兄さんら数名。そしてそれを疲れたように見守る者一人、困ったように見守る者一人、楽しそうに傍観する者が二人いた。
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