A requiem to give to you
- 食糧の村(2/5) -



「だから俺はやってぬぇっつってんだろ!!」



とやんちゃなお坊ちゃま……ルークが怒鳴る。すると厳つい顔したおじさんの一人が額に青筋を浮かべながら怒鳴り返した。



「でもオメェ、オレの店からリンゴを盗んだじゃねぇか!!」



その言葉に他の人達もますますいきり立つ。



「やっぱりお前だろ!」

「三人組だし、こいつら漆黒の翼だ!!」

「軍のお偉いさんも来ている事だし、しょっぴいてもらおう!!」



そう言って何人かの手がルークに伸びると、彼はそれを勢い良く叩き落とした。



「ふざけんな! リンゴについては後でちゃんと金払ったわ! それに三人組だからって何でもかんでも盗賊扱いすんじゃねぇ!!」



どいつもこいつも、と後に付けられた言葉には傍観していた内の一人のタリスも心の中で同意した。

昨晩、あの場所で目が覚めてから、一先ずタリス達は襲い来る魔物を退けながらも何とか渓谷を抜けた。その時に丁度水を汲みに来た辻馬車の御者と遭遇し、そこで初めて漆黒の翼と言う盗賊集団と間違われるも、ティアのお陰で誤解が解けた。それからティアの持っていたペンダントを支払って王都まで辻馬車に乗せてもらう事になったのだが……その行き先はキムラスカ王都のバチカルではなく、マルクト帝国の帝都、グランコクマである事知る。慌てて馬車を途中下車して引き返そうとしたが、キムラスカへと続く橋はマルクト軍から逃げていた本物の漆黒の翼によって爆破されてしまった。

仕方なく三人は一度近くにあったここ、食糧の村と呼ばれるエンゲーブへとやってきた。しかし、そこではちょっとした事件が起きており、またルークが買い物の仕方を知らずに窃盗未遂を働いたのが重なった為に犯人と間違われ、村長の家まで連れて来られたのだった。



「いつまで続くの……?」

「さあ?」



ティアが疲れたように重苦しい溜め息を吐きながら言った言葉にタリスはニコニコと答える。完全にこの状況を楽しんでいた。いつまでも同じ事を繰り返し言い合う双方に埒が明かないと踏み、村長であるローズが「軍のお偉いさんが来ているんだから少しは落ち着いとくれよ」と間に入った時だった。



「夫人の言う通りですよ、皆さん。少し落ち着きましょう」



カチャリ、と今まで飲んでいたコーヒーのカップを置いて立ち上がったもう一人の傍観者がニコリと綺麗な笑みを浮かべて言う。すると、驚く事に全員が口を閉ざしその者を見た。ハニーブロンドの長髪を持ち、血のように赤い目に縁のない眼鏡をかけ、マルクトの象徴である青い軍服を身に着けている長身の男。佇まい、只ならぬその存在感から、この者がローズの言う「軍のお偉いさん」なのだろう。



「誰だよ、アンタ」



ルークは苛々しながらその者を見上げて問うと、男は軽く会釈しながら名乗った。



「私は、マルクト帝国軍第三師団師団長、ジェイド・カーティス大佐です。以後、お見知り置きを」



そう言ってジェイドが綺麗すぎて逆に胡散臭くも取れる笑みを浮かべると、今度はルークの名を尋ねた。



「それで、貴方は?」

「俺はルーク。ルーク・フォ……」



全て言い切る前にティアが慌てて彼の口を押さえ、部屋の隅に連れて行った。恐らく、敵国の軍人の前で気安く名乗るものじゃないとかを説明しているのだろう。ファブレ公爵と言えば、マルクトとの戦争においてとても優秀な軍人だと聞く。それは自国からすれば尊敬に値するが、敵国からすれば、憎しみ以外の感情などそうそう抱く事はない。だからこんな所で名乗れば、屋敷に帰る所かマルクトの城まであまり嬉しくない社会科見学だ。それ思えば、少し乱暴ではあったが、ティアの行動は正しかったのだろう。


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