A requiem to give to you- 鏡合わせの濡れ紅(1/7) -
忘れない……あなたが教えてくれた未来《キボウ》を。ナクシタ時はとても悔しくて、寂しくて、その温かさを探したけれど……私よりもずっとずっとその手が必要で、求めていた子がいた事に気が付いた。
今度は私が支える番……なんて言える資格はないけれど、罪滅ぼしの言い訳になってしまうけれど、少しでもあなたの宝物を守っていきたい。
嘘、本当は嘘。─────本当は……私だけの光であってほしかった。
だから憎らしかった。私の大切なモノ達は、いつだってあの子を向いているから。だからあの子に酷いこと言ったし、何もかも忘れてしまったあの子に、醜いことをした……してしまった。
きっと目の前にいるアレは、私への天罰なのかも知れない。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
ルーク達がキムラスカ王都バチカルへと帰還した翌日。タリスは久し振りの邸でのベッドでゆっくりと休み、清々しい朝を迎えていた……のだが、
「みぃ」
目を開くとそこには少し大きな子猫がいた。
「え…………?」
寝起きでぼーっとする思考で何故ここにこの生き物がいるのかを考えていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「タリス! 起きてるか?」
と、元気な声で呼びかけるのはルークだった。流石に寝ていると思われる人の部屋には勝手に入っては来ず、外から何度もノックを響かせてくる彼にタリスは一つ伸びをすると口を開いた。
「今起きたわ。着替えてすぐ出るから少し待ってて」
「おう。ガイと邸の外にいるからなるべく急いでくれ!」
どことなく落ち着かない声色でルークがそう返し、それから直ぐに扉から離れていくのを感じたタリスは一先ずベッドから降りて身支度を整えると、小さい手で顔をぐしぐしと洗う子猫?を抱えて部屋を出た。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
「おまたせ、ルーク」
他の使用人や騎士団の人々への挨拶をそこそこに邸の外へ出ると、自身を呼び出したルークとガイ、それからティア、ジェイドが待っていた。
「ティア? それに大佐さんまで……?」
これは一体どうした集まりなのかしら、とルークに問うと、全員がキムラスカ王であるインゴベルト九世陛下に呼ばれたのだと返ってきた。
和平交渉に来たジェイドはともかく、ルークやガイ、ティア、タリスまでもが呼ばれるのは些か疑問が生まれた。
「まぁ、とにかく行ってみればわかるだろ」
そうガイが爽やかに返してから、ふと、タリスの腕の中で大人しくしている子猫?に気が付いた。
「そう言えばタリス、それ人形じゃ……ないよな?」
どうやら大人しすぎて人形だと思われていたらしい。近くに来た事で明らかに違うであろうことに全員が気が付き、皆の視線が子猫?に集まるのを感じた。
「ああ、この子ね? 朝起きたら目の前にいたのよ」
「なんじゃそりゃ。って言うか、そいつってライガじゃねーかよ!」
ルークはうげっと言った感じで体を反らして声を上げる。次いで「大丈夫なのかよそいつ」と、心配げな視線をタリスに投げかけると彼女はニッコリと笑った。
「大丈夫よルーク。だってアリエッタの姉弟よ? あの子本人から託されたんだもの」
「いや、だからこそ不安なんだっつーの!」
一度は殺すとまで言われた事もある相手だ。目の前で託された姿を見ていたとて、ルークにはとてもじゃないが安心が出来るはずがなかった。
それはティアやジェイドも同意見なのか、どことなく警戒の目が見て取れる。
「でも、預かったからには責任を持って面倒を見るわ。ライガの強さは知ってるでしょ? しっかりと教えれば、良い戦力にもなると思うの」
これからの事を考えてもね、とは口には出さずにライガの頭を撫でながらそう思いふけっていると、眼鏡の位置を直したジェイドが「まぁ、良いんじゃないですか」と言った。
「飼い主がそう言っているんですし、何かあったら自己責任でなんとかしてもらいましょう」
それより今は陛下への謁見が先です。そう言うとジェイドは城の方へと歩いて行った。そんな彼に色々と文句を付けたい様子のルークだったが、彼の言っていることも正論なのでぶすくれた顔をしながらも大股でその後をついていき、その後ろを残りのメンバーも追いかけるようにして歩いて行った。
それにしても、とタリスは思う。
(ヒースはどこへ行ったのかしら?)
最後に見たのは昨夕、フィーナに用事があるとかで買い出しに出た彼女を探しに出た姿だったが、あの後帰ってきたのかもわからなかった。件のフィーナに関しては今朝、他の使用人に挨拶した際に急遽ダアトへ帰省したと言っていたので、ヒースはヒースで別にどこかで油を売っているのかも知れない。
一抹の不安を抱えながらもそう思う事にすると、気持ちを切り替えるようにしてタリスは城扉をくぐっていった。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
タリス達がキムラスカ王への謁見をしているその頃、ヒースは巨大譜業戦艦の中で盛大な溜め息を吐いていた。
「はぁ……なんでこんな事に」
僕はただ、フィーナさんに聞きたいことがあって探していただけなのに、と己の理不尽な現状に頭が痛くなっていたのだった。
タリス達がマルクトに飛ばされた後、自身がセントビナーへ行くまでの間に会ったあの似非聖職者について……色々と問い正したく探していたのだが、目撃情報を元に天空客車の側を探していたら、僅かに感じた不自然な第七音素の気配につい足を向けてしまった。
不幸中の幸いか、お陰で幼馴染を一人失わずに済んだのだが、その結果こうして二人そろって神託の盾に捕まり、マルクトの戦艦へと放り込まれてしまった。
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