A requiem to give to you
- 鏡合わせの濡れ紅(2/7) -



「この先どうなるんだ……」



漸く帰ってきたと思えばこれだ。グレイもダアトに帰ってしまったし、これから帰る為の手段を四人で手分けして色々調べていこうと思っていたところで導師誘拐とは……まだまだ波乱は終わらなさそうである。

これからの面倒臭さに再度溜め息を吐いていると、唐突に部屋のドアが開かれた。



「ヒースちゃん」



そう言って入ってきたのはレジウィーダだった。彼女は一応神託の盾に身を置いていたのもあってか、捕まった後も割と自由に戦艦内をウロウロとしていた。

……ただし外には出られないので、事実上の軟禁であることに変わりはないが。そんなレジウィーダはどことなくぶすっとした顔をしたかと思うと近くにあった椅子にドカッと勢いよく座り憤慨し出した。



「んーもうっ! 完全に騙されたんだけどー!」

「どうしたよ?」

「どうしたもこうしたも! イオン君まだここに来てないし!」



は、と低い声が出てしまうのは仕方がないのだと思う。確かにヒース達はシンクによってイオンの命を盾にここに連れてこられた筈なのだから。



「なんかねー。夜の内に攫ったらしいんだけど、あたしらがいた廃工場あるじゃん? あそこを通る関係で来るのがお昼頃になるんだって」



あそこはなんだかんだ魔物の住処になっているから、流石に導師に怪我なんてさせたら拙いのもあり慎重に事を運んでいるのだそうだった。

これは完全に……



「あのガキに乗せられたな……」



ヒースは引き攣るこめかみを抑えながら、あの口の回る憎たらしい参謀長である少年を心の中で打ちのめした。そんな彼の心境をいざ知らず、レジウィーダは構わず憤慨を続けていた。



「もーーーー! 早く癒しがほしーいー!」

「そこかよ……いや、」



君はそう言う奴だよな、とどこまでもブレないレジウィーダに遠い目をするヒースだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







謁見の間には、玉座についたインゴベルトとナタリアの他に、ファブレ公爵、アルバイン内務大臣が揃っていた。



「おお、待っていたぞ、ルーク」



途中で合流したモースと共に歩み寄ってきたルークを見て、インゴベルトが早速口を開く。その後をアルバインが継いだ。



「昨夜緊急議会議が招集され、マルクト帝国と和平条約を締結することで合意しました」

「親書には平和条約締結の提案と共に、救援の要請があったのだ」

「現在マルクト帝国のアクゼリュスという鉱山都市が、障気なる大地《ノーム》の毒素で壊滅の危機に陥っているということです」



王とアルバインが交互に言う。そしてナタリアも口を開いた。



「マルクト側で住民を救出したくても、アクゼリュスへ繋がる街道が障気で完全にやられているそうですわ」

「だが、アクゼリュスは元々我が国の領土。当然カイツール側からも街道が繋がっている。そこで我が国に住民の保護を要請してきたのだ」

(確かにあちらの国の人を助ければ、和平の印にはなるでしょうね)



だがしかし、とタリスは思う。



「でも俺に何の関係があるんだよ」



タリスの心情を代弁するかのようにルークが不遜に言うと、ファブレ公爵が息子に言った。



「陛下はありがたくもお前を、キムラスカ・ランバルディア王国の親善大使として任命されたのだ」

「俺ぇ!? 嫌だよ! もう戦ったりすんのはごめんだ」



ルークは首を振って叫び、タリスは何とも言えない顔で彼を見た。



(やっぱり、あの人の言う通りになったわね……)



以前、エンゲーブで倒れた際に夢の中にいつかの金髪の青年……トゥナロが現れた。その時に彼は(人の睡眠時間まで削って)この世界の預言について話してくれた事を思い出した。

レジウィーダ達と合流後にヒースにだけこっそりとあの青年の存在について聞いてみたが、ヒースもまた、セントビナーに飛ばされる直前に会って同じ話をされていたのだと知って驚いたものだった。

焔の光の秘預言。それを覆して欲しいと彼の使者は言った。髪と同じ色の金色の瞳を瞬かせて……そう、

















変わってしまった"彼"の左目と同じ金色。それはあまりにも酷似しすぎていて、とてもじゃないが彼についてを残りの二人には聞けなかった。

ましてや彼は"タリス達"を知っていた。この世界に来る前の、四人の事を。



(……もし彼が私達……いえ、"宙"の事だけでなく、"あの人"の事まで知っているのだとしたら)



今の自分達の内情を知ったら、どう思うのだろうか……?



「この譜石をごらん。これは我が国の領土に降ったユリア・ジュエの第六譜石の一部だ」



インゴベルトの言葉に意識をそちらに向ける。色々と思い出している内に、ルークはアクゼリュスへ行く事を決めたらしい。



「ティアよ。この譜石の下の方に記された預言を詠んでみなさい」

「はい」



インゴベルトに促され、ティアは譜石を詠み始めた。



「『ND2000。ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す。其は王族に連なる赤い髪の男児なり。名を聖なる焔の光と称す。彼はキムラスカ・ランバルディアを新たな繁栄に導くだろう。

ND2018。ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ鉱山の街へと向かう。そこで……』……この先は欠けています」

「結構。……古代イスパニア語に言う"聖なる焔の光"とは、今のフォニック言語では《ルーク》。お前の名だ。つまりルーク、お前は預言に詠われた、選ばれた若者なのだよ」

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