A requiem to give to you
- 黒銀と白金(1/8) -


数ヶ月にも渡るマルクトの旅を終え、バチカルへと帰還したルークとタリス。和平の使者と途中で合流したガイとヒース、レジウィーダを伴い彼らは城へと登城し、先に陛下へと謁見していたモースに割り込んだ。

インゴベルト陛下へマルクトとの悪印象を植え付けようとしていたモースの言葉を否定すると同時に、和平の使者ジェイドの持つ親書をイオンを介し、陛下の手へと渡したのだった。

一先ず返答は明日に行う事になり、一行はファブレ邸に行く事になった。その道中でいつの間にか姿を消していたグレイがいない事に気付いたが、レジウィーダの説明を受けてタリスとヒースはどことなく不満そうにしていたが、過ぎてしまった事は仕方がないと諦め、今度会ったらただじゃおかないと言うことで話が纏まったようだった。







………………グレイ、頑張れ。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「父上! 只今帰りました」



ファブレ邸へと足を踏み入れると、そこには丁度城へと行こうとしていたファブレ公爵と、彼の後ろで待機していたセシル少将がいた。ルークはそんな父の姿を見付けると、嬉しそうに駆け寄った。



「報告はセシル少将より受けた。ルーク、タリスも無事で何よりだ」



言葉とは裏腹に公爵は相変わらず感情なく淡々とそう言った。それにルークが落胆の色を見せるのも気にせず、公爵はそのままガイとヒースを見やった。


「ガイとヒースもご苦労だった」

「……はっ」

「………勿体無いお言葉です。結果的には命令違反ですから。本当に申し訳ありませんでした」



ガイがビシッと敬礼する横でヒースは神妙な面持ちで頭を下げた。しかし公爵はそれを咎める事はせず、彼に顔を上げるように言った。



「謝る必要はない。お前はガイと共にルーク捜索の任に出ただけなのだからな」

「え……………?」



公爵の言葉にヒースはポカンと目を丸くしていると、公爵はそれ以上話すことは無いとばかりに他の皆を見た。



「使者の方もご一緒か。お疲れでしょう。狭い家だが、どうかごゆるりと」

「ありがとうございます」



イオンがお礼を言うと、公爵は頷き、再びルークを見た。



「ルーク、ヴァン謡将は?」

「師匠ならケセドニアで別れたよ。後から船で来るって」



ルークがそう答えると公爵はセシル将軍を振り返った。それにセシル将軍は頷き、公爵は「任せた」と一言返し、そのままルークを見て言った。



「ルーク、母さんに顔を見せてやりなさい」

(そう言えば、奥様は私達が飛ばされた後に倒れられたとか、インゴベルト陛下が言ってたわね)



と、タリスがそんな事を思っていると、公爵は登城すると言いルーク達の脇を通った………が、ティアの横に来ると一旦立ち止まって彼女を見た。



「そう言えば、君のお陰でルーク達が吹き飛ばされたのだったな」

「………ご迷惑をおかけしました」



そう言ってティアは申し訳なさそうに答えた。



「謝って済むとも思っておりません。どんな罰でもお受けする覚悟であります」

「! お、おいティアッ……」



ティアの言葉に今更ながら事態を思い出したルークが慌ててティアを見るが、公爵はそんな彼女の言葉には返さず、一つの疑問を投げ掛けた。



「ヴァンの妹で、彼を暗殺しようとしていたと報告を受けているが……事実はヴァンと共謀していたのではあるまいな?」



それにティアは訳がわからないと言った様子で眉を寄せた。



「共謀? 仰っている意味がわかりませんが……」

「ふん、まぁ良かろう」



その後、彼は何か呟いたがルーク達には聞こえず、公爵はセシル将軍と共に去っていった。



「何か……様子が変だったな」

「そうね」



ガイの言葉にタリス達も頷くしかなかった。

その時、突然奥のドアが開き、見覚えのある二人の女性が入ってきた。



「ルーク! タリス!」

「げっ」

「あら、ナタリア」



そう、片やキムラスカの王女にしてルークの婚約者であるナタリア姫だった。もう一人はフィーナで、どうやらナタリアの護衛も兼ねて案内役をしていたらしい。

ナタリアは嬉しそうにルーク達に駆け寄ったが、ルークの漏らした声に綺麗な眉を吊り上げた。



「まぁっ、何ですの! その「げっ」とは! わたくしがどれ程心配したと思っていますの!?」

「まぁ、ナタリア様。ルーク様は照れてやっしゃるんですよ」



ガイが苦笑しながらナタリアを宥めるが、ナタリアはギッと睨み彼に詰め寄った。



「ガイ! そうやってルークを甘やかさないで下さいまし!」

「ひっ」

「何故逃げるのです!?」

「ご、ご存じでしょう!!」



ガタガタ震えながら柱にしがみ付くガイはなんとも情けない姿だった。ナタリアは頬に手を宛てて溜め息を吐いた。



「まったく……。わたくしがルークと結婚したらお前はわたくし達の使用人になるのですよ。良い加減慣れなさい」

「無理ですぅぅうっ」

「踏み潰したいわねぇ……(子犬みたいで思わず拾いたくなるわねぇ)」

「タリス!?」

「君、本音と建前が逆になってるよ」



笑顔で酷い事を言い放ったタリスにガイがショックを受け、ヒースが指摘すると「あらやだぁv」と照れる素振りをした。

哀れ、ガイ。

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