A requiem to give to you
- 黒銀と白金(2/8) -


そんな彼を見かねたらしい、今まで黙っていたフィーナが口を開いた。



「ナタリア様、その辺にして差し上げませんと。使者の方々も困っておりますわ」

「あら、そうでしたわね!」



そう言ってナタリアはガイから目を離すと「失礼しましたわ」と一言告げてから青いドレスのスカートを軽く持ち上げた。



「わたくしはナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアと申します。以後、お見知りおきを」



流石は王女。優雅にお辞儀をするその様はとても気品に溢れていた。そんな彼女に定番の如く飛び出そうとしていたレジウィーダをヒースと二人で抑えつつ、タリスは補足を入れた。



「ナタリアはルークの従姉弟であり、婚約者でもあるのよ」

「こ、婚約者ぁあっ!?」



婚約者と言う単語に過剰反応したのは、玉の輿狙いのアニスだった。



「アニスちゃんの野望が……」



そう呟きながらアニスは頭に手を宛てて体を大きく回していた。しかしナタリアはそんな彼女に気付いていないのか、もしくは無視しているのか(十中八九前者だとは思う)はわからないが「それより」と話を変えた。



「ヴァン謡将も大変ですわね」

「! ヴァン師匠がどうかしたのか!?」



先程のアニス並に素早く反応するルーク。



(本当にヴァン謡将が好きよねぇ)



ナタリア曰く、どうやらヴァンは今回ルーク達が飛ばされた事を謀ったと疑われているらしく、港に着き次第捕えるとの事だった。



「だからさっき旦那様はティアが共謀しているのかと訊いたのね」

「ティア?」



タリスがポツリと呟くと、ナタリアは「どなたですの?」と訊いてきた。それにティアは一歩前に出て彼女に名乗った。



「申し遅れました。私がティア・グランツです」

「あら、貴方は………












メイドではありませんでしたのね」

「いや、どこをどうしたらメイドに見えるんだよ!」



あまりのボケっぷりに思わずルークが突っ込んだ。それ以前にいくら何でも今のは流石に失礼ではないだろうか。そう思いながらタリスはティアを見るが、本人はあまり気にした風ではなかった。



「んな事より、師匠はどうなっちまうんだよ!?」



ルークは不安でたまらない様子だ。それに漸くタリス達の拘束から抜け出したレジウィーダが宥めた。



「まぁまぁ、落ち着きなよルークさま。いくら何でも直ぐにどうこうはならないって」



ねぇ?と彼女はジェイドを向くが、彼は難しい顔をして己の予測を口にした。



「いえ…………姫の話が本当ならバチカルに到着次第捕えられ、最悪処刑と言う事も考えられますね」

「マジでか」

「大マジです」

「それは大変ねぇ」

「随分人事だなぁ、君は」

「そうかしら?」



これでも一応心配してるのよ、と言うとガイの苦笑は苦の部分が多くなった。少なくとも無表情で何考えてるのかわかりずらいヒースよりはマシだと思うのでは、と言うと彼は心外だと言わんばかりに眉を潜めてしまった。

なんて事をしているとルークがナタリアに詰め寄って陛下に取り成して欲しいとお願いをしており、更にその後ろではフィーナがレジウィーダを見ている事に気が付いた。



「フィーナ?」

「タリスさん、彼女は………」



どうやらフィーナはレジウィーダがとても気になる様子で、タリスに訊いてきた。それにレジウィーダ本人も気が付いたらしく、側に寄って自己紹介をした。



「初めまして! あたしはレジウィーダ・コルフェートでっす☆」

「フィーナ・レンテルです。その服は神託の盾騎士団の物ですか?」

「うん。一応休職中だけど、今は訳あってこうなってマス」

「レジウィーダ、それは説明とは言わないわ」



タリスが珍しくツッコミを入れると、レジウィーダは「細かい事は気にしなーい♪」と笑った。そんな二人のやり取りにフィーナは微笑ましそうに小さく笑った。



「仲がよろしいのですね」

「まぁ、幼馴染みですから!」



レジウィーダがそう答えると、フィーナはハッとしてタリスを見た。



「まぁ、では……」

「ええ、今回飛ばされた事で無事全員合流出来たの。一人は今ダアトに行ってしまったけれど」

「そうでしたのね……………ではやはり…………」



タリスの言葉に神妙そうに頷き、フィーナは再びレジウィーダを見た。それに見られた本人が首を傾げていると、横からアニスの悲鳴が聞こえてきた。



「はぅあっ!? プ、ププププロポーズゥッ!?」



そんなアニスの言葉に三人が振り返ると、顔を真っ赤に染めたルークとナタリアが目に入った。



「ガ、ガキの頃のプロポーズの言葉なんて覚えてないっつーの!」



どうやらルークはナタリアに"例の約束"とやらを思い出すことを条件にヴァン釈放の取り成しをお願いした様子だった。

二人の会話を聞く度にタリスは「前のルークって随分なマセガキだったのねぇ」と思った。それをガイとヒースに言ったらガイは苦笑し、ヒースは………無反応だったので取り敢えず肯定と取っておいた。



「それではルーク、タリスも早く叔母様に顔を見せて差し上げて下さいまし」

「あ、あぁ」

「えぇ」



ルーク達が頷くと、ナタリアは優雅に部屋を出ていった。それにフィーナも着いていく途中で、ルークを一度振り返った。



「それではルーク様、私もナタリア様をお送りしましたらそのまま買い出しの方に行かせて頂きますので」

「おう」



ルークがそう返すとフィーナは「失礼します」と一礼して足早にナタリアを追いかけて行った。



「……じゃあ俺は今回の事を騎士団の方に報告に行かなくちゃならないから、これで失礼するわ」



そう言ってガイも部屋を出た。



「では、僕達もこれでおいとまさせて頂きましょうか。アニス」

「はい……。ルーク様、アニスちゃんの事、忘れないで下さいね!」



寂しそうに言うアニスに、ルークは微かに眉を寄せた。



「何だよ、もう会えねぇみたいな言い方して……」

「そうは言っても、会えなくなる可能性の方が高いでしょうね」



ジェイドは眼鏡の位置を直しながら言った。

.
/
<< Back
- ナノ -