A requiem to give to you
- 置き去りの時間(1/11) -



それはもう二十年以上も前の事だった。歳が大体一桁から二桁になるくらいだろうか。この世界で最も美しい銀色の輝きを持つ街で生まれ、まだそこに家族と共に暮らしていた時なのはよく覚えている。父と母、妹、二人の幼馴染み、それから…………己の通っていた私塾の先生もいて、それなりに楽しく過ごしていたのだと思う。

ある時、突然その中に一人の少女が加わった。その地方では酷く珍しい黒い髪に黒い目をした小柄な少女だ。自分よりも背が低くて子供っぽい性格をしている癖に、何故かそいつは年上だった。どこかの貴族様と言いその少女と言い、碌な年上がいないと何度嘆いた事だろう。しかも彼女はかなり変わった癖のある人物で、場合によっては幼馴染みの馬鹿二人より厄介だった。

当時の自分は幼いながら毎日のように研究に没頭し、必要があれば小さな動物や魔物くらいは殺して歩いていた。そんな自分を忌み嫌う人達も当然多い。例の馬鹿二人や家族、先生は例外として、子供は勿論大人でさえ自分を気味悪がり、近寄ろうとはしなかった。

だからだろうか。子供っぽくて、何も知らない彼女がこんな自分を知ったらどう思うのかがとても気になった。どこから来たのかもわからない、自分の事などまるで知らない彼女が"死"についてどう言う感情を示すのかが……気になって仕方がなかった。

そんなある日、彼女の目の前で一匹の魔物を殺してみせた。得意の譜術を使い、一瞬で息の根を止めた。血飛沫が上がり、彼女の服にも沢山の赤が掛かった。そんな彼女に言った。



『死ぬって、どんな気持ちなのか……あんたにはわかるのか?』



自分にはわからない。そもそも死とは何なのか。何故人は誰かが死ぬと悲しみ、涙を流すのか。どうして人は、何かを殺す事を戸惑うのか……わからなかった。

そんな自分に、彼女は恐怖の色一つ見せずに至っていつも通りの様子で言ったのだった。



『一言で死ぬと言っても色々あるし、それは死んでみないとわからないと思う。まぁ、どの道死んだら口も利けないんだけど……ただ、人は、生き物は、常に何かを殺しながら生きているから、その時の"目的"と"感覚"の捉え方によっては、そこにある思いもそれぞれ違ってくるよね』



あまりにも予想とはかけ離れた、そんな言葉を紡いだ彼女の表情は、これから先も一生忘れる事はないと思った。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







静かな宿屋の一室。時計の音だけが鳴り響く部屋で、ジェイドはベッドの上に横たわり眠りにつくレジウィーダを見ていた。今まで彼女と二人だけでいる事はなかった為、こうして長くこの少女を見るのは初めてだ。

レジウィーダと初めて会った時からずっと、彼女の姿を目に映す度、何かを話す度に感じていた懐かしさ。違うとわかっていても思わずには居られない可能性に何度も頭を振った。

しかし今、この様に長く彼女を観察してみて違うと否定するには彼女はあまりにも……



「………似ている」



今はいない、あの黒髪の少女に瓜二つなのだ。歳はややレジウィーダの方が上だろう。そもそも例の少女に会ったのは自分が子供の頃の話だ。普通に考えて年齢が合わない……と思うのが常識だが、あの少女には本来の常識を覆すほどの秘密があった。それは、











少女は自分達の居る世界とはまた異なる場所から来たと言う事。

昔、本人から一度だけ聞いた事があるだけで、当時はまるで信じてなどいなかった………が、もし彼女が本当に異世界から来たのだと言うのなら、今目の前にいるこの少女と同一人物と言う可能性も無きにしも非ず、だ。もしそうでないのなら、残された可能性としては………………レジウィーダが、あの少女のレプリカである事……───


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