A requiem to give to you
- 置き去りの時間(2/11) -



「あのさ」



突然、何の前触れもなく目の前の少女がそう口にした。普段ならばそれくらいで動じたりはしないのだが、何故かこの時ばかりは酷く動揺してしまった。



「……起きてたんですか」



眼鏡のブリッジを指で押し上げ、彼女の顔を見ないようにしながら言うと、レジウィーダは目を開けて上体を起こした。



「んー、起きてたって言うか……人の顔見てずっと悩まれてると、なんか気まずいってか……落ち着かないよね、って」

「あー……そう、ですよね〜」



確かに、と苦笑しながら眼鏡から手を離し、その手でレジウィーダの肩を押した。



「まだ安静にしてなくてはいけませんよ」



そう言うとレジウィーダは素直に再びベッドへと横になった。やはりまだ体調が優れないのだろう。心なしか顔色も悪い。



「みんなは?」

「好きに過ごしてますよ。まぁ、約一名は船酔いで楽しめてるかはわかりませんが」

「あ、そう……」



船酔い、と言う単語で直ぐに誰だかわかったようで苦笑を浮かべた。それから直ぐに何かに気付いたような顔をするとジェイドを見上げた。



「でもさ、何でジェイド君があたしの看病してるんだ?」



絶対やりたがらないと思ってたのに、と何だか妙に失礼な事を言うこの少女にジェイドは肩を竦めた。



「暇そうだからと言って押し付けられたんですよ」

「マジでか」

「ええ」



素直に頷いてみせるとレジウィーダは苦笑したまま「ごめん」と謝った。そんな彼女にジェイドは再び眼鏡のブリッジを押し上げた。



「……まぁ、お陰でゆっくりと考える時間が持てましたけどね」

「そっか、それは良かった」

「ええ…………で、知りたいですか?」



不意にそう問い掛けると、レジウィーダは目を丸くした。



「何を?」

「私が何を考えていたか」

「教えてくれるの?」

「はい。貴女が知りたければ」



違う。きっと彼女が知りたいのではない。己が知りたいのだ………彼女の事を。

レジウィーダはうーんと少しだけ考える仕草を取ると、それから直ぐに嬉しそうに笑って頷いた。



「じゃあ教えてよ。ジェイド君の暇潰し!」

「……わかりました」



この笑顔が、次の自分の言葉でどうなるのかが気になった。驚くのか、不思議そうに首を傾げるのか、それとも何とも思わないのか……。どこかで期待をしている自分を抑え込みながら、ゆっくりと言葉を口にした。



「私は、昔出会った女の子について考えていました。その女の子の名前は………
















宙と言いました」






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「オイ」



タリスによって船酔いも治まらぬままに人の賑わう砂漠の街を連れられたグレイはとある店の前で立ち止まった彼女に声を掛けた。



「行きたいトコってのはここか?」



散々人混みに揉みくちゃにされたせいか、更に覇気のない声でそう言うとタリスはクスリと笑って頷いた。



「ええ、折角ケセドニアに来たのだから一度来てみたかったのよねぇ」

「ヘェ………因みに何の店だここは」



外装は至って普通。ただ、中心のストリートから少し外れたここは人が少なく、少し異質さを感じた。また店の看板には「ディンの店」と書かれているだけで、ぱっと見では何を営んでいるのかがまるでわからない。



「ここはそうねぇ……何なのかしらねぇ」

「お前な…………」



何の店かもわからずに来たのか、とは気力がなかったので言わなかったが、流石に言いたい事がわかったのかタリスは再び小さく笑うと「少し待ってて」と言って中に入っていってしまった。


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