A requiem to give to you
- 成せばなる!(1/10) -


今やインターネットの時代。携帯やPCをちょいと弄れば直ぐに欲しい物や情報が手に入る。中には釣りやらウイルス等が仕掛けられた偽情報もあったりするが、大した問題ではない。勿論、図書館も利用しなくはないが行くのも欲しい本を探すのも大変で、多くの人はインターネットを利用するだろう。

それでもインターネットでは調べようもない物もある訳で、その場合は図書館で調べる他ない。しかし……しかし、だ。



「譜術って一言で言うけどなー……





























一体どんだけあるんだよおおおおおおおおおおおおおおおお!」



以前、初めての譜術で散々な目に遭ったレジウィーダは「実践よりも先に理論から」と思い、教会附属の図書館へと来ていた。本を読むのは嫌いじゃない。好き、と言われれば微妙だが。

しかし、流石にこれはもしかしたら本好きでも苦悶の表情を浮かべるかも知れない。



「有り得ん……有り得んぞー! 棚何個分使ってんだっての!!」



そう、今彼女が探している譜術に関する本が幾つもの本棚にびっしりと詰まっていたのだ。これでは一体どこから手を付けたら良いのかわからない。



「参ったなー……」



次の配属試験まで一週間を切っていた。いや、そもそも今から理論をやっても普通に間に合う筈もないのだが、レジウィーダはそれに気付いてはいなかった。



「何やってンだよテメェは」

「うわ、出たな怪人うぉるふ」

「誰がだ!」



つーか名前ダセェ!、と顔を顰めて訴えたのはグレイだった。彼は「そこ退け」と言うと棚に持っていた数冊の本をレジウィーダでは届かない程の高さの場所に戻した。それを見たからなのかは定かではないが、レジウィーダは少し不貞腐れたような顔で口を開いた。



「アンタってさー、なんか出現率高くない?」

「出現率って……オレはRPGに出てくるモンスターかよ」

「似たようなもんじゃね?」

「ンだとコラ。つーか出現率高いとか言うけどな、そもそもテメェがオレの行く先々にいるだけだろうが」



寧ろそっちがモンスターだっての。

最後のは小さな声で言ったつもりらしいが、耳の良いレジウィーダには十分に聞こえていた。



「誰がモンスターだ!」

「最初に言ったのはテメェだろ!!」

 「あのー……」

「あぁそうだったね! 悪かったな」

 「あのぉー……っ」

「それ全く謝ってねーし!!」



ふんぞり返りながら謝る(?)彼女にすかさずグレイがツッコミを入れる。



「ナンだよー。せっかく心入れ換えたあたしが素直に謝ってんのにー!」

「いやだから謝ってねーっての! つか、それは心入れ換え内に入るのか!?」

「バカにすんな! これでもあたしだって……「いい加減に聞けやゴルァ!!!」


「「!!?」」



突然割って入ってきた大声に二人は驚き声の主を振り返ると、そこには図書館の管理人が腕を組んで仁王立ちをしていた。よく見ると(いや見なくてもわかるが)まるで始祖ユリアの天罰【ジャッジメント】が下ったかのような寂しい頭に青筋が数本浮かんでいる。

これは間違いなく、怒っている。



「騒ぐなら出て行ってくれ」






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「ついに追い出されてしまった……」

「寧ろ今までそうされなかった方が不思議だけどな」



まるでゴミのように図書館を放り出されてしまった二人は取り敢えず教会の中庭へと場所を移した。



「ったく、テメェのせいで暫くあそこに行けなくなったじゃねーかよ」



これで永久出禁喰らったらどーすンだあぁ?

そう宣う彼にいつものように反発しようと口を開きかけるが、半分は自分のせいなのは自覚していたので寸での所で言葉を呑み込んだ。



「……悪かったよ、ごめん。ちょっと熱くなり過ぎた」



素直に謝ると彼は驚愕の表情で固まった。



「? ちょっと、聞いてんの? おーい」



いつまでも反応がない彼の肩を叩くと何故か突然噎せ出した。……そんなに素直なのが珍しいか。そう思うとなんだか酷くムカついて来たが何とか押さえ、レジウィーダは先程から気になった事を訊いてみる事にした。



「ところでさ、アンタさっき棚に戻してた本って譜術の本でしょ?」

「ごほっ……あ? あぁ、そーだけど」



いきなり話題を変えられた為か若干遅れ気味に返すと、レジウィーダは微かな期待を込めてグレイを見つめ、問い掛けた。



「アンタ、譜術に興味あるの……ってか、もしかして出来たりする?」

「何で?」

「何でって……そりゃあ譜術を使えるようになりたいからだよ」

「ふーん」



それから暫く黙ってレジウィーダを見返していたグレイだったが、突然鼻で笑うと目の下に指を当てて舌を出した。



「だあ〜〜〜れが、教えるかってーの。バーカ」



それだけ言うとポカンと呆けるレジウィーダを置いて気分良く自分の部屋へと帰って行った。



「…………な、何なんだよー!!」



憤慨するレジウィーダの声だけが中庭に響いた。


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