A requiem to give to you- 成せばなる!(2/10) -
「あんのバカ男! ちょっとくらい教えてくれたって良いのに!」
グレイが去った後を見ながら憤慨するレジウィーダ。余程悔しいらしく、ゲシゲシと地面を蹴っている。
「何なんだろねーまったく。最近の男ってのはこうも不親切な奴ばっかなわけ!?」
もー、ケチだケチケチ! つーか意地悪だー!!
「さっきからウルセェ! 独り言なら他所へ行け!!」
「うわぉぅ!? ………って、アッシュ!?」
ずっと一人だと思っていた所に突然上がった怒鳴り声。それに驚いた彼女を余所にアッシュはフンッと鼻を鳴らして持っていた木刀で素振りを始めた。どうやらレジウィーダ達が来る前からここで自主トレをしていたらしいが、いるのならもっと早く言って欲しいとも思わずにはいられなかった。
「………………」
ブンッブンッ、と木刀を振る音だけが聞こえる。度々構えを変え、斬り込みの型を変えながら自分の戦闘フォームを作っていく。そんなアッシュを暫く眺めていたレジウィーダだったが飽きてしまい、邪魔になるとわかりつつも一応訊いてみた。
「ねーアッくーん。君って譜術使える?」
「アッ君言うな屑が。……あまり得意な方ではないが、出来る」
それがどうした、と素振りを止めてこちらを向いて聞き返してきた彼はとても律儀だと思った。何だか本当に自主トレの邪魔をして申し訳ない気持ちになったが、取り敢えずさっさと要件を言う事にする。
「出来れば譜術を教えてくれないかなーって。もしくはちょっと何か譜術をやってみて欲しい?」
「何……?」
「あ、別に無理だったら良いんだけど」
いくら律儀でも限界と言うものがある。それにアッシュにだって個人的な都合だってあるのだから、無理強いはいけない。そこら辺はいくら唯我独尊で傍若無人のレジウィーダにもわかっている。
「おい」
「ん、何?」
「お前の主属性は何だ?」
「主属性?」
何の突拍子もなくアッシュから出てきた聞き慣れぬ単語に首を傾げて聞き返すと「知らないのか」と呆れ気味に溜め息を吐かれた。
「そんなあからさまに呆れんなよ。こっちだって今まで音素とは無縁の環境で生きてきたんだから」
「? …………あぁ。そう言えばお前、異世界から来たんだってな」
その言葉に思わず噴き出した。お茶か何かを口に含んでいたら間違いなく大惨事となっていた事だろう。
「……どこでそれを?」
「ヴァンの奴がこの前言っていた」
あの栗毛侍。ええ加減あの髪と髭剃ったろかい。
「あぁああもうっ! 何でこーあっちこっちにベラベラベラベラ喋るんだよあのオヤジー!!」
しかもこれ思いっきりデジャヴだぞ! 何コレホント、二度ある事は〜って感じであと2、3回くらいあるわけか!?
「どーなの!? ねぇ!?」
「喧しい! そんな事を俺に言われてもわかるわけねぇだろうが!!」
「うん、そーだよね。知ってる」
「てめっ………。………それより」
コロコロ変わるレジウィーダのテンションにアッシュは切れそうになるものの、何とか思い止まり無理矢理話を戻した。
「主属性と言うのは己の持つ音素の属性だ。これは譜術や属性的な技を使う時に重要になってくる」
「術や技の扱いやすさとか?」
それにアッシュはそうだ、と頷いた。
「音素の相性によっては使えない属性の術があったりもする」
「成る程ね……」
確かにアリエッタやいつぞやの暗殺者はそれぞれ闇と光の譜術を主体に使っていた。相手の方はともかく少なくともアリエッタは闇か、もしくはそれに近い属性なのかも知れない。
「因みにアッシュの主属性って何?」
「………………」
ふと気になって訊いてみると、急に黙り込んでしまった。
「アッ「……光だ」
非常に小さく、言い辛そうな声だったが確かにそう言った。
「光かー。ちょっと意外だけど良いじゃん! 何がそんなに嫌なんだよ?」
正直火か……闇かと思ったのはここだけの秘密だ。そんな事を思っていると、アッシュはどこか諦めたように遠い目をして口を開いた。
「………俺は、光の譜術が使えない」
…………………。
「………そっか、うん。なんか……ごめん」
暫く何とも言えない微妙な空気が二人を支配した。
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