A requiem to give to you
- 魔王サマの狂想曲(1/10) -



「取り敢えずアイスが食べたいねー、アリエッタ」



ダアト商業区のど真ん中。何が取り敢えずなのかはわからないが、突然そんな事を宣った彼は隣にいるアリエッタと話しながらこちらをチラリと見た。

買ってこい、と無言の訴えだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







それは数分前の事だった。



「さて、と……レジウィーダ殿」

「ハーイ、ナンザマショ?」

「何でそんなに片言なんですか。て言うか、言葉使いが可笑しいですよ」



ダアトより少し離れた第4碑石の丘。クスクスと笑いながらそう言う濃い緑の髪を持つ彼は、ダアトにあるローレライ教団の最高指導者・導師イオンだった。彼は目の前で力なくライガに服の襟を咥えられたままぶら下がるレジウィーダを離すようにアリエッタに言った。



「ヘギャッ」



いきなり落とされ尻餅をついたレジウィーダは恨めしそうにイオンを見てお尻を擦った。



「いたた……酷いー。女の子はもう少し優しく扱えー」

「ははは、火山に特功を仕掛けるような人が何を言ってるんですか」

「何で知ってるんだ……って、アレは特功とちゃうわい!」



事故だ事故っ!と主張を示すが、アレはどう見ても特功以外の何でもなかった(※第3音参照)



「……それで、ドーシサマは一体全体あたしに何の用なんデスカー?」

「僕達の遊びに付き合って下さい」



あまりにもさらりと言われた予想外な言葉にレジウィーダは一瞬反応に遅れた。



「………はい?」

「聞こえませんでしたか? 今日一日僕の下僕になれ、と言ってるんです」

「いやいや、明らかにさっきと言ってる事違うよね?」



慌てて突っ込みを入れ、一つ息を吐くと立ち上がって服に着いた汚れをはたいた。



「遊ぶって言っても、お仕事は良いの?」



導師と言う役職ともなれば色々とやる事もあるだろう。恐らく先程も公務か何かから帰ってきたばかりなのだろうし、それについての報告書なり書類なりをまとめなければならないと思う。導師とは知らなかったとは言え、それを思いっきり妨害した者の台詞ではないとはわかってはいるが、何となく言わなくてはならないような気がしたのだった。

しかし彼から帰ってきた言葉はとても楽観的なモノだった。



「後でモースに押し付けるから良いです☆ って言うか、僕は普段からものすごーく頑張ってるからたまの休暇くらい許されたって良い筈なんですよ。
なのに大詠師や詠師どもときたら、何でもかんでもこっちにどうでも良い仕事まで回して来るものですから、余計な仕事が増えて最近なかなか遊べなかったんです。と言うか、大体年頃の子供が一日何時間も机にかじりついて良い歳したオッサンらよりも仕事してるとかおかしいじゃないですか。その上僕の心身の健康にも非情によろしくない。これじゃあひねくれても何も文句は言えない、そうでしょう?」



そうでしょう、と問われた所でダアトは実力社会主義で成り立っているのでどうにも返しようがない。ついでにひねくれている事に関しては既に手遅れであろう。そして何だか正当っぽく語ってはいるが、要するにサボリと言う事だ。










こんなんで良いのか、ダアト。

しかしそれに突っ込みを入れられるようなまとも(?)な思考の持ち主は残念ながらいなかった。何故なら……



「わかるっ、わかるよその気持ち! 最近の大人は無理を強いすぎるんだ。やっぱり子供はたくさん遊んどかないとね! いや寧ろそれが仕事、みたいな?」

「そうなんですよ! わかってくれたみたいで嬉しいです!」

「えーと……です!」



変に結託していたからだった(しかも微妙に噛み合っていないと言う……)


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