A requiem to give to you
- 月が微笑み、焔は夢見る(1/8) -

ND2015。ルナリデーカン・イフリート・24の日。

今日もつまんねぇ一日だった。

朝、邸の庭で剣の素振りをしていたらいつものようにナタリアが来た。そして開口一番に「約束思い出して下さいました?」だ。この四年間、毎日毎日俺の家に来てはこれだ。もう聞き飽きたっつーの!

昼までくだらない話に付き合わされ、やっと帰ったと思ったら今度は家庭教師とマンツーマンで勉強があるって言われ、急いで邸の裏に隠れた。そしたら使用人のガイが目敏く発見してくれたもんだから、直ぐにメイドや騎士が総動員して俺を捕まえにかかりやがった。一人の子供相手にそりゃねーだろ!

結局俺は捕まり、国の歴史だの何だのと勉強する羽目になった(まぁ、実際殆ど聞いてなかったけどな)

あーあ、これなら師匠と一緒に稽古してた方がよっぽど良いし! ……師匠、今度はいつ来るんだろう………。






ルークの日記より抜粋。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







聖はカーテンの間から入る月明かりを頼りに近くにあった日記を見ていた。書いてある内容が理解できないのは、お世辞にも書いてある字があまり綺麗とは言えないせいではなく、書いてある字自体が自分の知る物ではないからだ。それなのにこれが日記だとわかったのは、ノートの形状からだった。



「………はぁ」



と、溜め息と共にパタンと日記を閉じ、元の場所に戻す。聖が誰かの日記を持っていたのは、元々何かしらの情報を得る為に近くにあった物を手に取り、それが偶々日記だっただけであって、人のプライバシーを侵害する為に日記を見ていたのではない(どの道読めなかったが)



「………どうすれば良いんだよ」



思わず愚痴が漏れる。約束に遅れながらも宙と共に待ち合わせの場所に着いたまでは良かった。しかしそこには先に来ていたであろう二人は見当たらず、代わりに添える筈の花束と陸也の携帯電話が落ちていた。それを拾った時、町のシンボルである樹が光り……









気が付けば、誰かの部屋にいた。

部屋自体は広いが、中心にある大きなベッドのせいで若干窮屈に思える。周りには木刀や本、日記などの色々な物があった。先程見た日記もそうだが、壁や床の作りからして明らかに日本とは違う。










ならここはどこなのだろう。


一番手っ取り早い方法としては、人に訊くのが良いのだが、生憎と聖の直ぐ側にいる部屋の主は只今夢の中らしい。窓から見える月はかなり上の方にある事から、相当遅い時間なのだろう。大人ならまだしも、ベッドで寝ているのはまだ子供のようだった。気持ちよく眠るその顔を見たら、どうにも無理矢理起こすのは気が引けてしまった。



「……………はぁ」



再び溜め息を吐いた。それから眼鏡を外し、首にかけていた赤いヘッドホンを耳に着ける。取り敢えず朝になって子供が起きるのを待つべく、音楽でも聴いていることにした。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







タタル渓谷。昼間は動物達の鳴き声など、生命の音に溢れているその場所は、今は滝や虫、近くにある海からの波の音などの自然の音が溢れていた。

渓谷の奥にある、とある場所に白い花畑があった。のぼる月に引かれるかのように白い花達が顔を出す。潮の香りを運ぶ風に吹かれる度にそれはゆらゆらと揺れた。



「………っ、ここは?」



花畑の中心で気を失っていた涙子は、揺れた花にくすぐられて目を覚ました。


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